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ハナカイドウ

 女が眠っている。

 美しい女だ。

 長く豊かな黒髪が、寝台の端から床近くまで垂れていて、深く静かな呼吸とともに、花の香りを辺りに散らしている。

 私は、この眠りを守らねばならない。

 小さな寝室の窓には鎧戸が降りていて、微かな月明かりすら差し込まぬ暗闇が、しっとりと女を包んでいる。じっと、黙ってそれを見つめている私には、その睫毛の震えさえ、しっかりと見える。女の肌の白さは闇の中に淡く輝き、ぼうっと見ていると、その輝きがどんどんと増していくようだ。

 思わずつられて眠りかけ、私は落ちた頭をふるふると振った。朝まで、眠ってはならない。女が目覚めるまで。

 闇に目を瞠る。目の周りに力を入れて、眠る女の周囲を睨め付ける。闇はますます深まり、女はますます輝く。

 気がつくと、目蓋が降りていた。

 はっとして立ち上がると、乱暴に破壊された鎧戸の隙間から、強すぎる朝日が部屋を照らしていた。寝台に変わらぬ姿勢で横たわったままの女が、とうに冷たくなっているのを、私はすぐに悟った。

 私は仕事をまっとうできなかった。

 それなのに女の美しさは変わらないのが不思議な気がして、私はいつまでもそこから離れられなかった。

花言葉「美人の眠り」。

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