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 スベリは、私には勿体ないほど可愛い娘だ。妻に似て可憐に育ち、気性も優しい。今年で十五歳になるが、まだ残る幼さの中に時折芯の強さを垣間見せることがあり、我が娘ながら頼もしい気もする。

 そう、スベリは良い子、だった。


「お父様、どうなさったの」

 第四スベリが、椅子に座って黙考していた私を気遣って声をかけた。その美しい黒髪の一本が床に落ちたのを、私は見た。ああ、増える。スベリが増えてしまう。

「お父様、ご機嫌麗しゅう」

 第四スベリの黒髪から瞬く間に成長した第百二十スベリが、スベリそのものの仕草で頭を下げる。ああ、また増えてしまった。私は気もそぞろに挨拶を返しながら、今出現した第百二十スベリの処遇について思考を巡らせた。十番台から三十番台は、希望する家へ養子に出した。四十番台から八十番台は、住み込みで働かせてくれる家へ奉公に出した。それ以降は、よく分からないが申し出のあった大学の研究室へ渡してしまった。だから、この第百二十スベリも、この間申し出のあった研究所へ渡すことになるだろう。

 家の中には、最初の、つまり本物のスベリと、第二から第九までのスベリが住んでいる。みんなよく働き、決して喧嘩もしない。誰が最初のスベリであるか、という論争すら起きない。みんな、自分が本物のスベリから生まれ落ちたことをわきまえているのだ。

 妻と私は、スベリで満たされていく家の中で、なぜこうなってしまったのか考えるのをやめた。一年ほど前、どこかの研究者が話してくれたところによると、スベリの細胞は普通とは違うらしい。しかし、理由がどうであれ、スベリが増えるのは止められない。

 だから、妻と私、そして本物のスベリは、第二から第九までのスベリと共に、幸せに暮らすことにした。

 スベリたちは、良い子たち、なのだから。

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