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シャクナゲ

 村外れの、ここいらでは一等高いと言われる山へ、男は朝早くから登りだした。昨晩から熱を出して寝込んでいる妻のために、ここにしか生えないらしい薬草を採りに来たのだ。

 山は鬱蒼と深く、狩人が使うのであろう獣道しか見当たらない。元来た道が分からなくならないように用心しいしい、男は山頂を目指していく。目当ての薬草は、山の高い所にしか生えていないのだ。

 太陽が真上に来る頃、男はようやく頂が見える場所まで辿り着き、小川のほとりで休息をとった。ふと空を見上げた時、ほぼ頂と思われる場所に、座っている人影を見た。ごつごつした岩に腰を下ろし、虚空に足を投げ出したその人は、山を登るために色々な備えをしてきた男とは違い、至って軽装だった。まるで、ちょっと自宅から散歩に出たくらいの風情だ。鮮やかな桃色の着物を着ていて、長い黒髪を風になびかせている。全く疲れている様子は無い。

 男はしばし唖然と眺めていたが、やがて気を取り直して再び歩き出した。ちらちらと、岩に座る人を確かめながら、頂を目指す。高度が上がるにつれ、人影の姿がはっきりしてきた。どうやら女性のようだ。それも、目鼻立ちのくっきりと整った美人だ。なぜあんな別嬪が、こんな山奥に。男は不思議に思いながらも心惹かれ、いつしかその岩場に足を踏み入れていた。

 そこに、女はいなかった。

 つい直前まで、その後ろ姿を確認していた男は驚き、慌てて周りを見回した。しかし、どこにも見当たらない。まるで男を待っているかのようにじっと動かなかった筈なのに、忽然と消えてしまった。

 うろたえる男の目に、鮮やかな色が飛び込んできた。まさに女が座っていた場所だ。近づいてよく見ると、彼が探していた薬草だった。女の着ていた着物と、同じ色の花。

 女に優しく微笑まれたような気がして、男は深く頭を垂れた。

「高嶺の花」の由来。

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