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オジギソウ

 子どもの頃から泣き虫だったぼくをいつでも庇ってくれたのは、近所に住むお兄ちゃんだった。親戚でもなんでもなく、ただ、ぼくたち一家が引っ越してきたときに、母から「遊んでやってね」と言われたというだけなのに。

「お兄ちゃんは、どうしてそんなに優しくて強いの?」

 同じく近所に住む悪ガキたちにどつかれて泥の中で泣いていたぼくを助けて、ついでに悪ガキたちに一発ずつゲンコツをお見舞いしてくれた彼に、そう尋ねたことがある。お兄ちゃんは困ったように微笑んで、首を振った。

「ぼくは……優しくも強くもないよ。ただ、君たちより少し歳上で、……ずるいだけだよ」

 そのときは言われた意味が分からなかった。けれど、高校生になった今なら分かる。

 少しからかわれると泣いていたぼくは先生に指名されるたびに泣きそうになるようになり、呆れた母は、大学生になったお兄ちゃんに家庭教師を頼んでいた。頭もよく、ルックスも良い彼は、やはり優しく教えてくれる。

「お兄ちゃ……先生」

「お兄ちゃんで良いよ。呼ばれ慣れてるし」

 持っていた参考書を置き、お兄ちゃんは優しい目でぼくを見る。

「お兄ちゃんは、どうしてそんなに優しくて良い人なの?」

 ぼくの質問に、彼は目を伏せて微笑む。昔と同じく、何かを隠すような微笑み。

「ぼくは優しくもないし、良い人でもないよ」

 そのとき、部屋のドアがノックされ、母の明るい声が聞こえた。

「二人とも休憩にしない? お茶とおやつあるわよ」

 その声に、彼はぼくよりも素早く、そして微かな反応を見せる。さっと頰に赤みがさし、口元が綻ぶ。その様子を横目で見ながら、ぼくは大声を返す。

「はーい、母さん。今行くよ」

 ぼくはお兄ちゃんの細い腕をとった。

 ずるいのは、ぼくも同じだ。もともと母に似ていたぼくは、成長するにつれ、より似てきたと思う。

「行こう、お兄ちゃん」

 声変わりを経てもそれほど低くならなかった声で甘えるように彼に囁くと、彼は視線を泳がせた。

花言葉「繊細な感情」

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