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チューリップアンジェリケ

 大きな、薄皮の重なりが、滴の形に膨らんで、私の頭上より少し上の方で弓なりに反り、空の藍色を透かしている。遥か遠くに一番星が輝き、私は時間を忘れていく。

 透明な、花びらの形をしたそれに手を掛ける。あっけなく、薄い薄いその皮が剥がれた。風より軽いそれは、微かに弾力があり、齧るとほのかに甘かった。薄氷のような、氷砂糖のような冷感が、掌に心地良い。剥がれた皮の下には、また皮がある。透明な皮が透明な皮に無限に重なり、大きな花の内部には何があるのか知れない。私は次の皮に手を掛ける。

 簡単に剥がれていく皮に次から次へと手を掛け、時に口に含みながら、その内から漂ってくる甘い匂いにくらくらした。皮を剥がしていくごとに、匂いは強くなっていく。もう、何枚の皮を剥がしたか分からない。

 やがて手も疲れてきた頃、無限に思えた重なりの終わりが見えてきた。中に包まれていた何かが、ぼんやりと見えてきた。

 月明かりに照らされ、浮き上がった白い裸体。畳んだ脚を胸に引き寄せるようにして、胎児のように丸まった人の形。

 もっとよく見ようとして顔を近づけて、私は初めてぎょっとした。最後の皮に掛けていた手を離して、振り返ることなく走り出した。

 その人影は、紛れもなく、私の顔をしていた。

花言葉「夢」

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