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マンリョウ

 まだ人とそれ以外との境界が曖昧だった、昔のこと。

 思いがけず、福の神の仲間であるセンリョウとともに暮らすことになった老夫婦があった。センリョウは小さな男の子の姿で、老夫婦が若かった頃に子どもを授かったときのため用意しておいた着物を着て、二人の仕事を昼となく夜となく手伝った。まるで本物の孫の様に、老夫婦はセンリョウを可愛がった。

 しかし、三人で睦まじく歳を越して暫く経って、センリョウが時々、塞ぎ込むようになった。塞ぎ込むとは言っても、もともとが無邪気な質なので、一人でいる時にぼうっと空を見上げているといった程度のことだ。しかし、老夫婦は元気のないセンリョウを見るのが辛かった。なにぶん貧乏な暮らしで不足があるのかもしれなかったし、ひょっとすると福の神としての自分の至らなさを責めているのかもしれなかった。

 そんなある時のこと、老夫婦の家の前に、見知らぬ男が立った。目つきの鋭い、狐のような男で、顔立ちが面のように整っていた。

「センリョウという子どもが、この家にいるだろう。わたしはその子を引き取りに来た」

 戸惑う老爺の後ろから、センリョウが顔を出す。

「マンリョウの兄さま!」

「おお、センリョウ、元気そうだな」

 マンリョウはセンリョウの頭を撫でながら破顔した。万両と言えば、福の神の仲間の中で、千両よりも上位に数えられる存在だ。驚き平伏す老夫婦に、男は厳かに言う。

「センリョウを大切にしてくれて、ありがとう。でも、私たちは人里に留まっていてはいけないのだ。前の主人とも数ヶ月の約束で、預けていたのだよ」

「兄さま、その話なんだけど……」

「だめだ」

 マンリョウはぴしゃりとはねのけ、渋るセンリョウの手を握ってしまった。老夫婦は、それが取り決めならばと、寂しさを押し殺して遠ざかる小さな背中を見つめた。その晩は、火が消えたように静かだった。

 翌朝、二人は元気なセンリョウの声で目覚めた。

「センリョウ……お前は山に帰ったんじゃ」

「うん! 兄さまが、この近くの山に住めば良いって!」

 聞けばセンリョウの山は、この村のすぐ近くだった。三人は顔を見合わせて、長いこと笑いあった。

花言葉「財産」「徳のある人」

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