表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/365

ラナンキュラス

 人に話したいことがない。

 本を読んだりテレビを見たり、ネットの海を漂ったり、音楽を聴いたり編み物をしたり、お菓子を作ったりするのは好きだけど、それを人に話したいと思ったことがない。だって、人に話したって仕方ない。人に話すことで、本や番組やネットの情報や音楽が、より楽しくなる訳ではない。編み物やお菓子作りも、人に話して上達する訳ではない。

 でも物心ついた時から、周りにいる人たちは皆、自分のことを話したがっていた。両親も、歳の離れた兄も、幼稚園のお友達も、近所のおばさんも、楽しそうに自分の話をし、人の話を聞いていた。

 人間は、そうするものなのだ。

 そう学習したから、つまらない話を必死になって聴いて感想を言うようにして生きてきた。本当に全然楽しくなくて、そのお陰で外から帰宅した時には疲れ切っているのだけれど、そうしないと、きっと人間の中でやっていくことはできない。

 つまらない話を聴いて相槌を打ってコメントを考えるだけで精一杯だから、自分のつまらない話なんて、する気にはなれない。大体の人は話したがりなので、私が自分の話をしなくても、それほど気にされることはなかった。……それなのに。

「ちほちゃんって秘密主義だよね。全然、自分の話をしないでさ」

 大学で同じゼミをとっている彼女に、そう言われた。不意に核心を突かれてうろたえつつも、私は初めて抱く感情に胸を震わせた。

 私のことを、初めて、正確に捉えてもらえた。

 もちろん、私が人に自分のことを話さないのは秘密主義という訳ではなかったけれど、家族にも気づかれたことのない部分を見抜かれたことが衝撃だった。その衝撃のあまり、彼女のことしか考えられなくなるほどに。

 今、私は生まれて初めて、どうでも良いことを相手に話したいという気持ちを理解した。相手の、くだらない話を聴いていたいという気持ちを理解した。

 そして初めて、人の話を聴き、心底楽しい気持ちで笑っている。

オレンジのラナンキュラスの花言葉「秘密主義」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ