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ニホンズイセン

 起床後、朝食を取る前に、施設の中を巡回するのが日課になってしまった。万一、施設のどこかに破損があれば、私の穏やかな日常は壊れてしまう。遮るもののない日光が降り注ぐ農耕スペースで水散布システムと土中栄養素の確認をし、遺伝子合成食糧レーンに異常が無いか点検し、まだまだ空き部屋の沢山ある居住スペースを見て回り、最後に培養ポットの前に立つ。

 オレンジ色の培養液の中で、着々と『ベビー』が人間の形に近づいている。私は操作盤に指を滑らせ、性別選択と年齢操作を行った。ずらりと並ぶ培養ポットのそれぞれに、異なる入力を行わなくてはならない。整形操作はまだ必要無い。もう少し経って、顔に見知った特徴が出てきたタイミングで行う。

 それが終わると、ようやく朝食だ。食堂に行くと、既に何組かの『家族』が賑やかに食事をしていた。全員がにこやかに私に挨拶をし、子どもたちは手を振ってくれる。

『妻』は窓のそばの席に座っていた。いつもの通り、彼女の前には合成コーヒーがある。私と彼女、更に言うならこの施設の全ての人間が一番好きな飲み物だ。

「おはよう」

 声を掛けると、『妻』はにっこりと微笑んだ。

「おはよう。良い朝ね」

「ああ。農耕スペースの調子も良いし、今年も無事に春を迎えられるだろう」

 言い終わってから、春という概念が既に古いものであることを、『妻』の表情で思い出す。この施設には、季節なんてものは無い。

 気を取り直してプレートに盛ったペースト食を口に運びながら、『妻』の美しい顔を眺める。ベースは私のものだが、嘗てーーこの星にもっと人間がいた頃ーー私が好きだった女優のものに整形された、美しい顔を。

 別の卓で、子どもたちが喧嘩している。それを、それぞれの『親』達がなだめている。言い換えれば、私同士の喧嘩を、私がなだめている。私と、私の遺伝子を使って培養ポットから排出された多くの私だけが、この星で暮らす人類の全てだ。

 私は彼らを愛している。彼らもまた、私を愛している。愛情深い私たち人類はこれからも共に、穏やかな生活を送るのだ。

花言葉「自己愛」

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