表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/365

スノードロップ

 今年は諸々の不都合によって、実家への帰省も初詣もしていない。毎年の恒例がすっかり抜けてしまって、ただ一人暮らしのアパートの部屋で、正月特番をぼーっと眺めて過ごすばかりだ。

 一人でいると、めでたい筈の酒もツマミも、たいして進まない。友だちの年賀メッセージへの返信もひと段落し、ふと窓を見ると、ちらほらと雪が舞っている。実家では珍しくもない光景だが、この地方ではあまり無いことだ。

 こんな雪を見ていると、あの子のことを思い出す。

 家族で元旦に初詣へ行くたびに、神社の側で、その女の子を見かけた。初めて見たとき小学生だったおれは、その子の、抜けるような色の白さに驚いた。それで、親が社務所で買い物している間に、こっそり声をかけた。肌と同じ白色の綺麗な着物に身を包んだその子は、はにかんだように笑って、神社の裏に隠れてしまった。すぐ追って行ったのに、もう影も見当たらなかったのを、よく覚えている。

 次の年の初詣でも、同じ女の子を見つけた。雪のように白い肌と着物が本当によく目立つのに、親も兄弟も、彼女に気がつかないようだった。女の子はおれを見るとにっこり笑って、雪玉を放ってくれた。

 それから毎年、初詣のたびに、その子と雪遊びをした。家族にはやはり見えないようだったし、女の子は決して喋らなかったけれど、そんなことは気にならなかった。その子の背丈が全く変わっていないことに気がついたのは、もう雪遊びをするような歳ではなくなってからだ。

 中学二年の元旦、彼女は寂しそうに笑った。それからずっと、姿を見ていない。

 何となく懐かしくなって、ベランダに出てみた。ひんやりとした空気を吸い込んで、ふと視線を落とすと、足下に、小さな雪玉が転がっていた。あの子が作った物にそっくりだ。

 もしかしたら、あの子はいなくなったのではなく……。

 いや、そんな訳は無い。

 我ながら馬鹿らしい発想に苦笑いして、空を見上げる。戯れに拾い上げた雪玉を放ると、楽しげな笑い声が聴こえた気がした。

種小名「二バリス」はラテン語の「雪」から来ていて、「雪の中や近くで成長する」という意味であるところから着想しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ