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ポインセチア

 心は熱いものだと、少女は言った。その時、青年は具体的な温度を尋ねたのだが、それが愚問だったことを、今、彼は理解していた。

 心は熱い。数字で表せないほどに。

「さて、こんなもんかな。生まれ変わった気分はどう」

 少女は、肩までまくり上げていた白衣の袖を直しつつ、椅子に腰掛けた青年に声を掛けた。青年は潤んだ目で少女を見上げ、今まで試みたことすら無かった計算を続けながら答えた。

「私は……私は、感動しています。素晴らしい。これが心なのですね」

「とりあえずは、そうと言える、かな」

 少女の答えは歯切れが悪い。白衣のポケットの中でレンチを弄びながら、青年の頭頂部を見つめる。

「計算上は、これで君にも心が備わったことになる。ただ、君が今感じている『心』が、本当の意味でのそれなのか……」

 突然、青年に抱きしめられて、少女の声は途切れた。その腕の温もりに、彼女は大きく目を見開いた。

「博士、私はようやく理解できました。私は、私を造った貴女のことが」

「あーあ」

 少女は途端に大きな溜息をつき、腕を振りほどいた。呆気にとられる青年に背を向け、壁際まで歩いて振り返った。

「博士」

 青年の声が震えた。その震えに、誰より青年自身が驚いていた。新たに獲得した心のせいか? いや違う。人工声帯が、意図しない震えなど再現するはずがない。

 何かがおかしい。

「はがぜ……あ、熱い……」

 心が、胸の奥が熱い。

 青年のボディ内部で、計算できないほど高温の熱が発生していた。熱は瞬く間に全身に広がり、彼の構成組織を溶かしていく。

「こ、こご、ろが……」

「残念だけど、それはただの熱暴走だ」

 言葉はもう出なかった。青年はボディから噴き上げる黒煙とともに機能を停止した。

 少女は換気のために窓を開け、臭いに顔をしかめながら後片付けの準備を始めた。床に転がった青年の眼球を拾い上げ、呟いた。

「本当に、残念だけど、ね」

花言葉「私の心は燃えている」

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