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センリョウ

 まだ人とそれ以外との境界が曖昧だった、昔のこと。

 雪のしんしんと積もる年の暮れ、老爺は懐に入れた銭入れを大事に抱えて、街を歩いていた。これでなんとか、隙間風の通る家で老婆と二人、貧しいながらも年を越すことが出来るだろう。寒さでかじかんだ手で、傘と雪駄を編んだ甲斐があったというものだ。

 掻き入れ時だけあって往来には活気がある。老爺が賑やかな通りをひっそりと行き過ぎようとした時、目の前に小さな子どもが倒れ込んできた。見ると、主人らしい男に突き倒され、蹴り飛ばされたところのようだ。

「珍しい縁起物だって言うから買ってみたが、てんで役に立たねえ! いっそ凍え死んじめえ」

 怒鳴り声に、子どもは丸くなって震えている。老爺はたまらず駆け寄った。

「こんな小さい子になんてことを」

「なんだ爺さん、余計なことを。そいつは役立たずだが未だおれの財産なんだ。それとも代わりに面倒みてくれるってのか」

「ああ、そうさせてもらおう」

 老爺は銭入れを男に投げ、子どもを助け起こした。男は舌打ちして立ち去り、子どもは涙を浮かべて老爺に頭を下げた。

「お爺さん、ありがとう。ぼくはセンリョウ。役立たずだけど……」

 千両と言えば、福の神の仲間だ。老爺は目を丸くしたが、兎も角、すぐに子どもを連れて帰った。赤い着物に雪が染みて、見るからに寒そうだ。事情を聞いた老婆は、大切にしまっていた子ども用の着物を取り出してきた。誂えたように、千両にぴったりだった。

「どうしても捨てられなかった着物が、こんなところで役に立つとはねえ」

 そう言って、老爺と老婆は笑った。それから二人はまた遅くまで傘を編み、どうにかいくらかの銭を作り、久方ぶりに賑やかな新年を迎えた。

 男が言っていた通り、千両は二人に財を運んできてはくれなかった。しかし、素直で優しい千両は、確かに二人のもとに福を連れて来たのだった。

花言葉「富」「財産」「祝福」

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