表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/365

カラー

 死んだ従姉妹と結婚してくれと言われた時は、流石のおれも断ろうかと思った。

 なんでも実家の地方の習俗だとかで、未婚の死者には結婚相手を見繕い、葬式と同時に結婚式も挙げるのだそうだ。おれは生まれてすぐ別の県に引っ越したから、そんな習わしがあるのだということも知らなかった。

 従姉妹とはあまり喋ったこともなく、親戚の集まりで会った時も、無口な子という印象しか無かった。おれより歳下で、まだ若いのに死んでしまったのは可哀想だと思う。だからと言って、死んだ人間と結婚するのは全く気が進まない。

 しかし、通夜の直前、叔父さんに殆ど土下座のような勢いで頭を下げられてしまっては、それでも嫌ですなどとは言えなかった。別に書類に残るわけでもない。ただ遺族の気持ちを晴らすためと割り切る他ない。

 そう思い臨んだ通夜は、生憎の雨模様もあって、ひどくしんみりとしていた。弔問客の数もまばらで、ひっそりとした別れの儀という趣がある。

 式の中盤、叔父さんに紹介されて棺の前に立ったおれは、予め渡されていた白い花を、遺体の胸元に置いた。身をかがめた時に鼻をかすめた清浄な香りにくらっとし、棺にとりすがったおれの指は、一瞬、彼女の唇に触れた。その、永劫に静かであるべき口元が、僅かにほころんだ。

「ありがとう、お兄ちゃん」

 それは、記憶の中にある彼女の声と、同じ声だった。

 そうだ。彼女は昔、その声で、おれに言ったことがある。大きくなったらお兄ちゃんと結婚したい、と。完全に忘れてしまっていた。

 慌てて見直すと、その唇はまた元のように、きっちりと結ばれていた。おれはもう一度、今度はもっと丁寧に、花を置き直してやった。

花言葉「清浄」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ