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シンビジウム

 世に怪異と呼ばれる存在は多けれど、それは単に人間というごく限られた動物から見た場合の話であって、当然ながら怪異にとって怪異は怪異ではない。我らは単に我らであり、人間という視野狭窄的精神の持ち合わせしかない動物とは違い、己を他の生命とは一線を画す存在だなどと思ってはいない。つまり、我らはありふれている。

 しかし、そんなありふれた我らの中にも、高貴な血筋というものはある。それはたまたま大きな力を振るう機会に恵まれたものが人間の伝承となり、人語を解する数多の動植物たちにも膾炙し、やがて元よりも強大な力を蓄えるようになったものだ。我らは知られることで力を得る。そうして力を得た高貴なものは、各々のやり方で群を形成する。分裂したり、他のものを乗っ取ったり、婚姻したり、好きにやる。そうすることでますます知名度は上がり、彼らの力はより強くなる。

 お嬢様も、そうして作られた、高貴な血筋を引くものの一つだ。

「カース。なぜわたくしはここから出てはいけないの」

 海中の泡で作られた城の奥で、お嬢様は私に問う。背鱗が虹色に輝き、物憂げな瞳が水銀のように動く。私はその瞳とまともにぶつからないよう、視線を逸らしながら答える。

「お分かりでしょう、お嬢様。お父様がお嬢様のことを大切に思っておいでだからですよ」

「でも、こんなの退屈で死にそうだわ。他のものたちは自分の役割を見つけに、広い世界へ出ているというのに……」

 お嬢様が殆ど癖となっているため息を吐いた時、海がざわついた。途端、その口元が綻ぶ。

「来た!」

 叫びながら、お嬢様は片腕を上げる。海域上空に飛んで来ていた人間の機械が簡単にひしゃげて、城の中に吸い込まれてくる。お嬢様はそれを嬉しそうに拾い上げて掌に載せ、中の様子を眺めたり、不運にも息のある人間を舌の上で転がしたりなどした。

 ここから出られないお嬢様が、外の世界を知ることのできる数少ない機会……そして、お嬢様がここから出られない理由が、これだ。人間たちに「魔の海域」と呼ばれるここを守ることが、お嬢様の果たすべき役割なのだ。

花言葉「深窓の麗人」

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