表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/365

キク

 最近、獏の元気が無い。特殊生物外来に連れて行ったところ、私の方に原因があると診断された。

「あなた、あまり夢を見ませんね。夢を見る間もなくぐっすり寝入ってしまうタイプでしょう」

 なぜ簡単な問診だけでそこまで分かってしまうのか。私が居心地悪くもぞもぞすると、医者はカルテにペンを走らせた。

「美味しい夢を食べさせてやりなさい」

 処方された薬は可愛い桃色のカプセルだった。夜に一粒だけ飲み込み、既に獏が布団の側に待機しているのを確認して、私も布団に潜り込む。いつものようにすぐ眠気がやってきて、意識は一度、そこで途切れた。

 夢の中で私は、理想を全て詰め込んだ、完璧な恋人との逢瀬を楽しんでいた。ずっとしてみたかった知的な会話を交わし、夢の中らしく曖昧な筋立ての映画を鑑賞し、美味ということしか分からない料理に舌鼓を打った。恋人の住まいは豪邸だった。と言っても私の貧相な想像力のお陰で、細部に靄がかかった豪邸だ。バルコニーで愛を語らい、その後起こったことは、ちょっと口に出せない。

 目覚めると、朝日を浴びながら、獏が隣で満足げに眠っていた。久しぶりに美味しい夢を食べられて幸せだったのだろう。

 しかし、あんなに良い夢を見られる薬なら、毎日でも飲みたいところだ。

 そう思って薬の入っていた袋を見ると、中毒性があるため一月に一度までしか処方されないと書いてあった。

「君がご馳走にありつけるのは、一月に一度なんだってさ」

 呟きながら、獏の丸いお腹をつつく。幸せな夢を見ているのであろう彼は、静かに寝返りを打った。

桃色の菊の花言葉「甘い夢」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ