デルフィニウム
そのイルカを見ると幸せになれると聞いて、水族館へ出かけた。イルカが可愛いから幸せになれる、というのではなく、イルカがショーを見た人に幸運を与えてくれるというのだ。変わった話なので半信半疑だったけれど、付き合っていた人にこっぴどく振られたばかりの私は、そんな噂にもすがりつきたいほど傷ついていた。
イルカショーは混んでいた。早く来ていたお陰で最前列に座れたけれど、瞬く間に観客席が埋まってしまう。
幸運のイルカは、見た目からして変わっていた。うっすらと桃色がかった肌色をしているのだ。ピンクのイルカは、愛嬌のある動きで観客を魅了した。ポップな曲に合わせて何度も空中にジャンプし、その度に涼しげな水しぶきが上がる。中でも一際大きなジャンプの時、最前列の私は頭からそれを被り、びしょびしょになってしまった。
見回すと、そんなに水を被ったのは私だけだったようで、他の観客たちは気の毒そうに、若しくは羨ましそうに私を見ていた。恥ずかしいし濡れた髪が顔に貼りつくしで居心地の悪さを感じ始めた時、隣の席から急に、タオルを差し出された。
「幸運のイルカの水を被れるなんて、ラッキーですね」
爽やかな声に顔を上げると、声と同じくらい爽やかな好青年が座っていた。この間、私を振った男よりもタイプだ……などと失礼なことを考えてしまい、慌てて首を振る。その拍子に、髪についていた水滴が彼にも掛かってしまった。
「ははは、ぼくにまで分けてくれるんですか」
穏やかに笑う彼に、私は一瞬で心を掴まれた。
幸運のイルカが楽しげに鳴いた。
花言葉「あなたは幸福をふりまく」と、名前の由来がギリシャ語の「イルカ」から来ていることから着想しました。




