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ソバ

 この人は、きっととても寂しがり屋だ。

 彼女に初めて出会った時、そう思った。高校の時から続けていた陸上を大学でも続けようか迷っていた頃、彼女が声を掛けてくれたのだ。

「あんた、走るの好きだろ。ウチと一緒に走らない」

 後ろで無造作に丸められた黒髪、スポーツマンらしく引き締まった身体、何より人の目をしっかり捉えて離さない、色素の薄い瞳。リンドウと名乗った彼女は、一つ上の先輩だった。

 部活動自体は、陸上部とは名ばかりの、単なる交流会だった。もちろん練習や大会に向けての予選などはあったけれど、おれがいた高校の、走り漬けの日々とは大違いだ。しかしその中でリンドウ先輩だけは黙々と日々の自主トレをこなし、定期的に開催される親睦会には形ばかりの参加をするに留め、真摯に陸上に向き合っていた。おれは自然と彼女の側にいることが多くなり、他の新入生と話すより、彼女と話している時間の方が長くなっていった。

 そんなある日のことだ。リンドウ先輩が、部室の隅で一人の部員と話し込んでいたことがあった。どうやら何か、人間関係の相談事のようだった。泰然自若とした彼女は一目置かれており、相談を受けることも多いと聞く。内容までは分からないが、切れ切れに聞こえる言葉から、おれは彼女の意図に気付いてしまった。

 彼女は相談に乗るフリをしながら相手を束縛し、自分無しにはいられなくなるように仕向けている。悲しむ相手を慰める風を装って、より悲しみに突き落とすような言葉を掛け、同情を装って傷を抉る。そういうことを、至って自然にやってのけていた。

 翌日から、彼女が相談を受けていた学生の姿は見えなくなった。親身な助言だと思って聴いた言葉は、遅効性の毒薬だったのだから当然だ。

 きっとリンドウ先輩は、これまでずっと、そうして生きてきたのだろう。相手の感情を繋ぎ止める術を他に知らないのだ。

 初めてその目に見据えられた時おれの心は、その底に潜む歪な寂しさに掴まれたのだ。それを悟ってしまったら、もう退けない。

 そんなことをしなくても離れない心があることを、彼女に教えたい。彼女の中に澱のように溜まった毒を、少しずつで良い、解してあげたい。

 おれが彼女を救おう。

花言葉「あなたを救う」

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