コミックス発売記念◇大切な思い出
コミックス2巻あたりの時間軸の話です。
いつか主人公であるベネッタが現れて、オーウェン様と恋に落ちるまでの間。
つなぎの婚約者として、オーウェン様の幸せのためになにができるかしら。
やっぱり、煩悩ばかりの私としては、元カノ――私のこと――もいい女だったと思ってもらいたい! それでもって、ちょっとだけ、オーウェン様の記憶にも残りたい!!
じゃあ、そのために何をするべきかというと。
「うーん」
オーウェン様ってば、貧乏男爵家の私とは比べ物にならないくらい、お金は有り余るほど持っているし(何せ、公爵様だからね!)。だから、公爵家にあるものは、質がいいものばかりで、プレゼントを贈るにも、働いていない私には手が届きにくい。
……ということで、モノではなく、体験をプレゼントしたいんだけど――。
「思い浮かばない!!」
オーウェン様は色んなことを経験してそうだし……。
「はっ! そうだわ!!!!!」
決めた、これにしよう。
そうと決まれば、早速準備ね!!!!
◇◇◇
「オーウェン様」
今日がちょうどオーウェン様がお休みでよかったと思いながら、話を切り出した。
「どうしたんだ?」
オーウェン様は、今日も美しい。柔らかい笑みを浮かべながら首を傾げたオーウェン様に胸がときめく。1000000億点でも足りないわ。好き。
「実は、お願いしたいことがあって……」
「?」
「私と一緒に、絵を描いてくれませんか!?」
い、いえたー!!!
緊張したけど、なんとかいえたわ。
オーウェン様に私の絵を描いてもらうっていう体験をしたとき、オーウェン様がすごく絵が上手いことがわかった。
それで、二人で一つの絵を描くことを思いついたのだ! 絵って基本ひとりで描くことの方が多いと思うけれど、だからこそ、思い出に残るかなって、思った。
「それはもちろん、構わないが……、どんな絵を描くんだ?」
「ありがとうございます! テーマも、実は決まっていて……ずばり、公爵邸のみんなです!!!」
「なるほど……、それは面白そうだな」
やったー!!! 好感触!!!!
私はうきうきでマージにすでに用意してもらった大きなカンバスと、絵の具を広げた。
ーー二人でどうしたらもっと素敵な絵になるか話し合いながら、絵を描き進める。
大枠を私が描いて、細かい難しいところをオーウェン様に頼んだ。
少しずつ、色彩豊かになっていくカンバスを見ていると、公爵邸に来てから今までのことを思い出した。
最初はただ、死にたくなくて、オーウェン様に媚を売ろうって考えていた。
でも、いつのまにか、顔だけじゃなくて、優しいオーウェン様に恋に落ちて。
だからこそ、オーウェン様に幸せをプレゼントしたいって考えている。
そんなことを考えながら、手を動かし続けていると、二人の手が止まった。
顔を見合わせてから、カンバスに視線をやる。
うん、かなり、いい出来じゃないかな。
「……リリアン」
オーウェン様がカンバスを見つめながら、ぽつりと私の名前を呼んだ。
「はい」
「ここに描いてあるみんなは、笑顔だ」
公爵邸のみんな……セディやマージ、ダグラスの笑みを描いた。
「だが、前はここまでみんなが笑うような屋敷じゃなかった。別に特別暗い、というわけではなかったが……」
それでも。とオーウェン様は続ける。
「あなたが来てくれて、屋敷中が明るくなった。この笑顔の中心にいるのは、まちがいなく、あなただ。この絵を描いて、改めてそう思った」
「……オーウェン様」
「ありがとう、リリアン」
オーウェン様が、柔らかく微笑む。
「私の方こそ、このお屋敷にきてから、とても良くしていただいて、本当に嬉しいです」
嘘偽りない本音だった。
私は、今、とっても幸せだ。
「……よかった」
オーウェン様が、心底嬉しそうに微笑む。
私の大好きな、少年のような笑みだった。
「これからも、よろしく頼む」
ーーあと、何回オーウェン様のこの笑みがみれるだろう。
でも、今だけは、私はあなたの婚約者だから。
「はい!」
私は満面の笑みを浮かべ、頷いた。
ーーその後。
後日談として、公爵邸の面々によって、私とオーウェン様の笑顔もかきたされ、大人数での共作となった絵は、公爵邸の一番いい場所に飾られることとなった。
いつもお読みくださりありがとうございます!
この度、「死にたくないので、全力で媚びたら溺愛されました!」のコミックスの2巻が出ることになりました!!
漫画・ムネヤマヨシミ先生
発売日・8月10日
出版社・双葉社様
ムネヤマヨシミ先生が
リリアンは可愛らしく、オーウェンはかっこよく、
また、ときめきやコミカルもぎゅっとつまった素敵な作品に描いてくださっていますので、
何卒宜しくお願い申し上げます!!




