特別な呼び名
――最近、思っていることがある。
「私――とても、幸せです」
「そうか」
穏やかに微笑んだオーウェン様に、微笑み返す。
「それで……今も幸せなんですけど」
「? どうした?」
ううう。愛の言葉なんて、何度も何度も言ったはずなのに、とっても緊張する。
でも、女は度胸よね。
すーはー、よし!
「わ、わたしを、オーウェン様の特別にしてください!!」
「!?」
オーウェン様、どうかな。
恐る恐る、オーウェン様を見ると、小刻みに震えていた。
「オーウェン様……?」
ど、どどどどうしよう。
図々しかったかな。でも、オーウェン様の特別になりたいのだ。
「わたしは……」
オーウェン様は天を一度仰いでから、私を見た。
「ずっとあなたを特別に想っている。伝わってなかったんだな?」
「……いえ」
そうではなくて。いえ、それも嬉しいんだけど。
これ以上、どう伝えよう。そう思い、悩んでいると、オーウェン様は、ん? と首をかしげた。
「だって、だってオーウェン様はダグラスにオーちゃん様って呼ばれてたから……わっ!」
急に目の前から、オーウェン様が消える。
「お、オーウェン様?」
もしかして……。
下を見ると、思った通り狐姿のオーウェン様がいた。
狐姿のオーウェン様は、恥ずかしそうに前足で顔を隠している。
私はしゃがみこみ、目線をオーウェン様と合わせた。
「……オーウェン様」
「な、なぜあなたがそれを……」
「だって、執務室から最近呆れた声で、ダグラスが言っているのが聞こえたんです! ダグラスとオーウェン様が仲良しなのは知ってます! でも、私だって、オーウェン様をあだ名で呼んでみたいなって……」
最後は消えそうな声で私がそういうと、オーウェン様は、前足を顔からのけた。
「……あれは、ダグラスにからかわれただけだ」
えっ。ダグラスってからかうようなキャラだったっけ。
思わずぱちぱちと瞬きをすると、狐姿のオーウェン様は、続けた。
「最近、ダグラスの親戚が結婚したらしくて……、その二人があだ名を呼びあっているという話になったんだ。それで、わたしがあなたにどう呼ばれたいか、と聞かれて……」
もしかして……。
私がオーウェンさまを見つめると、オーウェン様は人の姿に戻り、私に弁解した。
「たっ、単なる出来心だったんだ! だから、あなたを傷つける意図は……、リリアン?」
私は、オーウェン様に抱き着いた。
「オーちゃん!!!」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ぽん! と音がして急に、抱きついていた質量が変わる。
「……なんで」
「……ダグラスにだけ呼ばせてずるいです。愛してます、オーちゃん」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
狐姿のオーウェン様は、耳をふさぐように私の腕の中で丸くなった。……可愛い。
普段、私ばかりドキドキしているから、お返しだ。
「オーちゃん、可愛いですね」
「!!!!!!!! も、もうやめてくれ……」
照れているオーウェン様が、可愛くてオーちゃん、オーちゃんと連呼すると、オーウェン様は、ぼそりとつぶやいた。
「リーちゃん」
「!?!!!?」
あまりに、びっくりしてオーウェン様を落しそうになった。慌てて、絨毯の上に、オーウェン様を下ろして、手を口に当てる。
「い、いまなんて……」
「リーちゃん」
「!!!!!!!!!!」
は、恥ずかしいー!! 恥ずかしすぎるわ。真っ赤になって、頬を押さえていると、人間に戻ったオーウェン様が反撃のように、リーちゃんと繰り返した。
私もそれに仕返しでオーちゃんと連呼する。
「!!!!!!!!! ……これ、お互いにダメージが来ませんか?」
十回くらい繰り返したところで、オーウェン様を見る。オーウェン様も、オーウェン様の瞳にうつる私も明らかにドキドキしすぎて疲弊していた。
「……そうだな」
そして、二人の合意のもと、あだ名禁止令が発令された。
――のちに、生まれた子供たちがふざけて呼んだあだ名で、今日のことを思い出し、古傷がえぐられるのは、また、別の話だ。
いつもお読み下さり、ありがとうございます!!!!!
本作が電子書籍で3巻がでることになりました。
レーベル:Mノベルスf様
イラスト:なま先生
です!
また、本作のコミカライズの一巻も発売中です!!
何卒よろしくお願い申し上げます!!!!




