番外編 2
オーウェン様と結婚した、数日後。
私は、どうしたものかと頭を悩ませていた。
私の悩みとは……そう!
全然媚びることができていない! という深刻なものだった。
このままではオーウェン様の地雷を踏んで、殺されてしまう。……ことは、もうたぶんないんじゃない、かなぁ、と思うのだけれど。
オーウェン様と結婚してから、オーウェン様がよりいっそう輝いて見える。
つまり、なにがいいたいのかというと。
私の旦那様かっこよすぎて、他の人にアプローチされないか、心配! ということだった。
オーウェン様は浮気なんてするようなお方じゃないと知っているけれど、万が一、いえ、億が一ということはありえる。
そうならないために、オーウェン様の心をガッチリつかみたい。
「どうしようかしら……」
プレゼントはどうだろう?
贈り物は、誰だって嬉しいし。
うん、我ながらナイスアイディア。
贈り物を考えましょう。
「……『お願い券』?」
オーウェン様が、ぱちぱちと瞬きをした。
「ええとこの券を使ってオーウェン様がしたお願いは、私のできることなら、なんでも叶えます」
オーウェン様ったら、さすが公爵様なだけあって、プレゼントとして思い付いたものはもってらっしゃったのよね。
……前世でいう小学生が母の日にしそうなことだとわかっているけれど、これしか他に思い付かなかった。
「お、オーウェン様、やっぱり、あの」
やっぱりオーウェン様、こんな券いらないわよね。
そう思って、お願い券を返してもらおうとすると、オーウェン様は意外なことをいった。
「これは、今使ってもいいのか?」
「はっ、はい!」
オーウェン様は、5枚綴りのそれを一枚切り離すと、願った。
「隣に座ってくれ」
「えっ!? そんなことでいいんですか?」
オーウェン様の向かい側のソファに座っていた私は、オーウェン様の隣に座り直す。
すると、オーウェン様はもう三枚、切り離した。
「手を繋いで」
それは、少し、恥ずかしいかもしれない。
いつも、オーウェン様から手を繋いでくださるから。
ドキドキしながら、ぎゅっと手を繋ぐ。指を自分から絡めると、オーウェン様も握り返してくれた。
ええと、さっき三枚切り離してたから、お願いはもう二つあるのよね。
……なんだろう。
オーウェン様は、とろりとした蜂蜜のような瞳で私を見つめた。
「あなたは……私のどこが好き?」
「……え」
「教えてくれ」
次のお願いって、それ!?
ええと、オーウェン様のどこが好きかって。
まずは、やっぱりその優しさよね。それから、笑顔も好き。それから、私は面食いなので、オーウェン様の顔も好き。オーウェン様の声も好きだな。低すぎない、落ち着いた声。それから、照れ屋なところも、ええと、それから酸っぱいものが苦手なところも可愛いと思う。それから……。
私は、一つ一つオーウェン様の好きなところをあげ連ねた。
「……そうか。ありがとう」
オーウェン様は、心底嬉しそうに微笑むと、次のお願いをした。
「……口づけを、してほしい」
「えっ!?」
き、ききき、キス!?
私、自分からオーウェン様にキスをしたのって、頬くらいしかないのよね。
……これは、かなり恥ずかしいかも。
でも、オーウェン様のお願いだもの。叶えたいわ。
ゆっくりと、オーウェン様に顔を近づける。
吐息が触れる距離。
あと、少し。
優しく、オーウェン様に触れ──られなかった。
「!」
吐息ごとからめとられるキスをされる。甘くて熱くてとけそうな、キスだった。
「……オーウェン様、」
あと、少しだったのに。
私がオーウェン様に抗議すると、オーウェン様は赤い顔で、すまない、我慢ができなかった。と言った。そんなオーウェン様も好きだけれど。
ええと、でも、私からできなかったから、これは無効ね。
気を取り直して、もう一度オーウェン様にキスをする。
今度は、ちゃんと、できた、と思う。
そういえば、オーウェン様はあと一枚券がある。最後の願いはなんだろうか。
「最後は……いつかのときにとっておく」
「……リリアン」
大好きなあなた。愛しいあなたが、私の名前を呼ぶ。
力が抜けて落ちそうになったしわくちゃな私の手を握り返してくれた。そんなあなたの手になにか握りこまれていることにきづいた。手の隙間からみえる、それは。
「……ふふ」
お願い券。
ずいぶん懐かしいものを、まだ、持っていてくれたのね。
思わず、笑みがこぼれる。
「あなたの、願いを教えてほしい。それが、願いだ」
私の、願い。
最後の一つを私のために使うなんて、欲のない人だ。
「オーウェン様」
「どうした?」
泣きそうな顔であなたが、私をのぞきこむ。
「笑って、ほしいわ」
あなたが、少しだけ困ったような顔をして、それから、くしゃくしゃな笑顔をみせた。
「愛してる」
最初はただ死ぬのが怖かった。自分が死ぬのが怖いから、あなたに媚びを売ることにした。でも。そしたら、今度はあなたと一緒に生きられないことが怖くなった。あなたと生きたいから、死にたくなくて。
今だって本当は、死にたくない。意外と泣き虫なあなたのそばにずっといたい。でも。そろそろ、時間がきたようだった。
「おやすみ、リリアン」
愛しいあなた。大好きなあなた。
おやすみなさい。
最後までお読みくださり、ありがとうございます!
書籍ははやいところだと今日発売のところもあるようです。
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