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【コミカライズも完結】死にたくないので、全力で媚びたら溺愛されました!  作者: 夕立悠理
新たな死亡フラグ!?

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番外編

「……いってきます」

「いってらっしゃいませ」


 不思議そうな顔をしたオーウェン様を見送り、自室に戻る。


 オーウェン様と想いが通じあって数日。

 私は、ある衝動を抱えていた。


 オーウェン様に、もっと、もっと触れたい!


 オーウェン様は以前言った。

 婚約者に触れたいと思うのは、自然なことだと。


 だから、少し、ほんの少しだけ、いってらっしゃいのハグを長くするくらいなら構わないと思うのだけれど。

 でも、私がしたいのはもっとこう、なんというか。


 前世でいう、バカップルみたいなことがしてみたい。


 たとえば、隣に座って、オーウェン様のさらさらな銀糸の髪を撫でたい! 撫で回したい!!


 手を握って、お散歩がしたい!


 でもオーウェン様にそんな私の欲望を正直に言って、厚かましい、はしたないと嫌われたら嫌だ。


 それなら、諦めるしかない。諦めるしかない……ないのだけれど。

「……はぁ」


 ため息をつく。想いが通じれば、どれだけ幸せだろうと思っていた。でも実際は、とても幸せだけれど、その幸せには満足できない。


 際限なく、それ以上を望んでしまう。

 自分がここまで強欲だとは思わなかった。


「どうされました?」


 マージが心配そうに私をのぞきこむ。


「……ううん、何でもないの」

 私が首をふるとマージは柔らかく微笑んだ。

「リリアン様、ミルクティーはいかがですか?」









 ──暖かいミルクティーは、ゆっくりと心を解した。

「マージ、聞いてくれる?」

「もちろんです」


 私は正直にマージに話した。オーウェン様と両想いになって嬉しいのに、それだけで満足できないこと。もっともっと触れたいと思ってしまうこと。そんな自分の強欲さにがっかりしてしまうこと。そんな私を知られて、オーウェン様に嫌われたくないこと。


 私が最後まで話し終わると、マージは扉の方へ振り向いた。

「だ、そうですが……」

「え?」


 扉から現れたのは、オーウェン様だった。

 えっ、なんで!? 出掛けたはずじゃ。もしかして今の聞かれて──。


「すまない。盗み聞きするつもりはなかったんだが、あなたの様子がおかしいのが気になって、帰ってきたんだ。……リリアン」

「……はい」


 オーウェン様は、困ったような顔で私をみていた。ああ、どうしよう。呆れられた?


「なるべく早く帰る。大事な話があるから、待っていてくれ」


 そういって、オーウェン様はお仕事に向かわれてしまった。







 ……日が傾き始めた頃、オーウェン様は帰ってきた。


 オーウェン様がお仕事の間、大事な話の内容を考えてみたけれど。

 ──やっぱり、こんな強欲ではしたないやつと婚約続行なんて嫌だから、婚約を解消しようっていう話があるってこと、よね。


 くらい気持ちになりながら、オーウェン様を出迎える。

「おかえりなさ──」


 けれど、言葉は最後まで言えなかった。

 オーウェン様に抱き抱えられたからだ。

「オーウェン様!?」

 驚いている間に、ソファに運ばれ、下ろされる。その隣にオーウェン様も座った。そして、オーウェン様は頭を下げる。


 こ、これはいったいどういうこと?


「撫でないのか?」


 えっ、撫でて、……いいの?


 おそる、おそるオーウェン様の髪に触れる。さらさらな髪が指の間からこぼれ落ちた。一度撫で始めると手が止まらず、これでもかと撫で回してしまった。


 一通り撫で終わると今度は、オーウェン様は私と手を繋いだ。

「あとは、手を繋いで散歩、だったな?」

「は、はい」


 もしかして、さっきのも、今の散歩も婚約解消の前の土産ってことかしら。涙目になりながら頷くと、オーウェン様はぎょっとした。


「ど、どうした?」

「オーウェン様、私、婚約解消なんてしたくありません」

「……は? 婚約解消!? 誰かに何か言われたのか?」

「だって、大事な話って、婚約解消の話、ですよね。私が強欲だから──」

 恐る恐る、オーウェン様の方を伺おうとすると、それはかなわなかった。ぎゅうぎゅうに抱き込まれたから。

「オーウェン様?」

「愛してる。言っただろう? あなたが嫌がっても離すつもりはない」

「で、でも。私は強欲で、それが嫌になって、大事な話があるっていったんじゃ……」

 オーウェン様は、私から体を離すと、私を見つめた。


「……違う。大事な話は、私もあなたに触れたいという話だ」

「オーウェン、様も?」

「ああ」

 なんだ。そっか。私だけじゃなくて、オーウェン様も同じ気持ちだったんだ。なんだか、衣装部屋での出来事を思い出して暖かい気持ちになる。


 オーウェン様の顔がゆっくりと近づき、それから思い出したように止まった。

「……危ない」

「オーウェン様?」

「あなたを大切にすると、あなたのお父上と約束したんだ。だから」

 結婚するまで、唇にキスはしないのだと言った。


 ──結婚。

 私たちはいずれ、結婚する。

 今はまだ、初めて生まれた特別な欲や感情に戸惑うばかりだけれど。

「オーウェン様、愛しています」

「私も、愛してる」


 この感情をたくさん抱えて笑って、暖かな家庭をあなたと築いていけたらいい。そう、思った。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。この度、「死にたくないので、全力で媚びたら溺愛されました!」が書籍化する運びとなりました。これもひとえにお読みくださる読者様のお陰です。本当にありがとうございます! 


レーベル:Mノベルスf様

イラスト:なま先生

発売日:10月15日

です!


たくさん加筆修正したのと、書き下ろしの番外編もありますので、ぜひお手にとっていただけましたら幸いです。

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お読みいただき有難うございます!
感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!
連載中です!
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[良い点] よかったです。一気読みしました。感動しました。次作も期待しています。
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