さんじゅう
私を拐った男性二人は捕まった。それに巫女は再び時空渡りをした、ということになっているので、それから私が再び拐われることもなく、穏やかに日々が過ぎた。
そして──。
公爵邸に産声が響いた。
「オーウェン様、ヴィクターですよ」
やっと、一息というか、息も絶え絶えなんだけど、そこでようやくずっと側にいてくれたオーウェン様の存在を思いだし、声をかける。
オーウェン様は、泣いていた。
「……ありがとう」
オーウェン様は、震える腕で私たちを優しく抱き締めた。
「私を、愛してくれて。家族になってくれて、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます。オーウェン様と出会えて、良かった」
出産中は死ぬかと思ったし、実際に魂の半分は抜けかけていたような気もする。けれど。腕の中にいるヴィクターを抱きなおした。小さいのに、重い。この重さを愛おしく思う。
オーウェン様がいなければ、出会えなかった。オーウェン様と出会って結婚してから、幸せ度の更新は止まるところをしらない。
これから先、色んなことがあるんだろう。でも、確かなことは私はあなたがそばにいてくれるだけで、幸せだということ。
本当に色んなことがあった。長男のヴィクターの反抗期だとか、長女のエリンが結婚したいと連れてきたのが、鬼だったとか。次男のルーベンの──……。あげだしたらきりがない。でも、でもね。私は。
「オーウェン様、」
私は愛しいあなたに呼び掛ける。
「どうした?」
あなたは、なぜか泣きそうだ。そんなあなたに笑って、ずいぶんとしわくちゃになった手で頬を包む。
「私、とってもとっても幸せでした」
「……っ、ああ。私も幸せだ」
最初はただ死ぬのが怖かった。自分が死ぬのが怖いから、あなたに媚びを売ることにした。でも。そしたら、今度はあなたと一緒に生きられないことが怖くなった。あなたと生きたいから、死にたくなくて。
今だって本当は、死にたくない。意外と泣き虫なあなたのそばにずっといたい。でも。そろそろ、時間がきたようだった。
腕から力が抜ける。落ちそうになった手をあなたが繋いでくれた。それに応えたいのにとても眠い。
「……おやすみ、リリアン」
ええ。おやすみなさい。愛しいあなた。愛してるわ。
──これは、死にたくないので、全力で媚びたら溺愛されて、とても幸せだった私の物語だ。
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