はち
さて、夜会。私にとって、夜会とは魑魅魍魎が跋扈する恐ろしい会──じゃない。
残念ながら、貧乏男爵家相手に腹芸をするほど、他の貴族も暇ではない。
だから私にとっては、友人たちと話しながら、時間を潰す会だった。
でも流石に、公爵の婚約者として出席する夜会で誰にも相手にされないことはないでしょうね。
そんなことを思いながら、マージに髪を結われていると別の使用人が驚きの声を上げた。
「リリアン様、とっても美しいです! どんな花も霞むほど……!!」
私は、平凡な顔立ちをしている。つまり、何が言いたいかと言うと。ものすごく化粧映えをするのだ。化粧とはすなわち顔にする芸術。なんといっても、私の顔は主張するパーツがない。だから、濃いめの化粧をすればあら不思議。平凡娘が、艶やかな美人に大変身だ。
「ありがとう」
いいのよ、素直になんて平凡な顔なの! と驚いても。
と、まぁ、自虐はそこまでにするとして。ちょうど髪も結い終わり、支度がすんだところで扉をノックされた。
「準備はできただろうか?」
「はい」
オーウェン様だ。黒い燕尾服のオーウェン様は、白銀の髪がよく映えてとっても素敵だった。思わず、ほぅ、と息を漏らす。
「どうした?」
「いえ。オーウェン様が、あまりに素敵なので思わず」
媚び媚び作戦そのに。思った誉め言葉は素直に言ってみましょう。まぁ、オーウェン様の場合、綺麗とか素敵とか言われなれているから、反応がないだろうけれど。
けれど、オーウェン様は、意外な反応をした。
「あぁ、その。ありがとう。あなたも、とても、綺麗だ」
「!!」
オーウェン様はまるで何かを懐かしむような様子で。けれど確かに少し、口ごもった。まさかオーウェン様が、照れている……ですって!? オーウェン様って、もしかして濃い化粧をした私みたいな顔がタイプなのかしら。だったらいつも、化粧を濃くしてみようかな。
そんなことを考えながら、オーウェン様にエスコートされる。
さぁ、夜会の始まりだ。