にじゅうきゅう
!?!?!?!?
何も……何も聞こえなかったわよね。うん、聞き間違いよ。聞き間違い。私は気を取り直して、宝玉に手を翳し続けた。けれど。
『巫女』
再び、声が聞こえた。いやいやいやいや。そういうの望んでないから。それに身に覚えがないわ。人違いよ。
『人違いではない』
人違いです。
『人違いではない。……世界を渡り、そなたは変わったな』
いや、全く知らない神に、そんな元彼みたいな言い方されても。
『世界を渡る前のそなたは、もっと従順だった』
従順な女性がよろしいなら、尚更人違いです。それに、私は巫女なんて大層な肩書きは欲しくない。
『そなたは、巫女を辞めたいのか?』
辞めたい以前に、人違いだと思うけれど。もし、万が一巫女なのだとしたら、辞めたい。私にはそんな大変そうなの務まらないし、それに、私には帰るべき場所がある。
『そうか。……巫女は、そなたは、ようやく自身の幸せを見つけたのだな』
そういった時空の神は、少しだけ寂しさが入り混ざった、でも嬉しそうな声だった。
『ならば──……』
私が翳していた手を戻すと、信者たちの視線が一斉に集まる。
「神はなんと!?」
「神は再び、私が時空渡りをすることをお望みです」
私がそういうと、信者たちはどよめいた。
「巫女様が再び、時空渡りだなんて!」
「せっかくご帰還されたばかりなのに!?」
顔を見合わせて、様々なことを言い合っているのが落ち着くのを見計らって、言葉を続ける。
「なので、今から時空渡りをします。そして巫女としての私は死にます。……その後も肉体は残りますが、巫女の私の精神はもうありません」
なんだかよくわからないけれど、時空の神に言われた通りの言葉をいった。
そして、腕を組み、目を閉じる。
すると、目映い光が私を包んだ。
光が途切れたのを見計らって、目を開ける。
「本当だ! 本当に巫女様は、再び時空を渡られたぞ! みろ、ここに残っているのは、凡庸な娘だけだ」
私を拐った男性がそういったのを皮切りに、みんな言いたい放題言ってくれた。
「本当ね。全く神秘を感じないもの」
「巫女様の輝きの欠片もないわ」
と、そこで。大広間の扉が勢いよく開いた。
「リリアン!」
オーウェン様と一緒に、警官隊が大勢入ってきた。けれど、信者たちは巫女が時空渡りをした瞬間に立ち会えたことに感動するばかりで、全く抵抗しなかった。
オーウェン様に抱き締められる。
「怪我はないか?」
「はい。大丈夫です」
「良かった……!」
オーウェン様の腕の中は、安心して。やっぱりここが私の帰るべき場所だと思った。
 




