にじゅうろく
「奥様っ!」
ダグラスが急いで、扉の方から私の方へと向かう。私も二人からただならぬものを感じて、距離をとろうとした。けれど、一人の男性が指をならすと、たちまちダグラスが消えた。
「ダグラス!」
ダグラスに何をしたの。そう問い詰めようとして、気づく。ここは私の自室ではない。何かあったのは私の方だ。ヴィクターは大丈夫かしら。慌ててお腹をさすった。
特にお腹が痛くなるなどはしてないけれど。ヴィクターに何かあったら心配だ。
「なにを、したの」
私が男性たちを睨み付けると、男性たちは跪いた。
「神術で転移しました。ご無礼をお許しください。けれど、それもすべてはあなたのため」
私のため、ねぇ。
「……神術というのは、胎児に影響はないの?」
「ございません」
それなら、ひとまずは、ヴィクターのことは安心かしら。
妖術でも魔法でもなく、神術。なんとなく、聞いたことはあるような、ないような。
「それで、ここはどこなのかしら」
「我らが、時空教の神殿でございます」
時空教。我が国では、メジャーな宗教ではないものの、その存在は聞いたことがある。確か、時空の神を信仰している宗教だ。けれど、宗教勧誘にしてはいささかやり口が強引ではなかろうか。
「残念だけれど、宗教はもう間に合っているの。だから、元いた場所に帰してもらえないかしら」
私がそういうと、ようやく男性たちは立ち上がり首を振った。
「なにをおっしゃる。時空渡りの巫女様のご帰還は我らが、悲願」
「申し訳ないのだけれど。その時空渡りの巫女というのが、人違いなの」
「いいえ。巫女様は死の運命に二度あらがわれた。それこそが、巫女様の証」
死の運命に抗う? そんなことしてな──。
「ご自身の死を二度、夢見したはずです」
自分が死ぬ夢を見る。確かにオーウェン様に妖術で殺された夢とか、刺客に殺される夢とか見たけれど。
「心当たりがおありでしょう」
「自分が死ぬ夢くらい誰でも見るわ」
納得できない私に、男性たちは諭すような声でいった。
「ただ、死ぬ夢なら誰でも見るでしょう。ですが、巫女様が見たのは、平行世界の自身の死。実際におこるはずだった死です。その死を夢見できたのは、巫女様は一度平行世界もこえた、全く別の時空へ渡られたから。そして巫女様は再び、この世界に戻られた。我々は巫女様をずっとお待ちしておりました」




