にじゅうに
妊娠すると大変なことのイメージとして、つわりがあったのだけれど。
「ふわあぁ」
思わず欠伸がでてしまったわ。私の場合、吐き気もあるけれど、何より一番眠気がひどかった。
眠い。寝ても寝ても眠いのだ。でも、だからといって、ずっと寝ているわけにはいかないし。でも、眠いし。
どうしたものかな、と悩んでいると心配そうな瞳と目があった。
「大丈夫……じゃないな」
オーウェン様が困ったような顔をした。
「私に何か出来たらいいんだが」
「そんな思い詰めた顔、しないでください」
眠いだけだ。どうしようもなく。それだけがとてもつらいのだけれど。
「オーウェン様がそばにいてくれるだけで、嬉しい、です」
オーウェン様、今日なんかわざわざ仕事を休んでくれた。申し訳ない。私が謝るとオーウェン様は、
「あなたが大変なのは私たちの子供のためだろう。それなのに、私だけ知らない顔はできない」
といってくれた。
「だが、すまない。妖術が使えれば、あなたの辛さをかわることが出来たかもしれないのに」
えっ! 妖術そんなことができるんだ。便利だわ。
なんて、お話している間にもまた、眠くなってきた。眠いっていうか、意識が飛びそう。
「オー、ウェン、さま……」
オーウェン様が手を握ってくれる。あぁ、なんだかとても安心するわ。好き。そう思ったのを最後に、深い眠りへと落ちていった。
夢もみないほど、深く眠って。
「ん……」
左手が温かい。もしかしてオーウェン様ずっと側にいてくれたのかしら。そんなことを思いながら、目を開けるともう夕方だった。
「よく眠れたか?」
オーウェン様が心配そうに私を見た。手はまだ繋がれている。
「ええ、お陰様で」
といいつつ、まだ眠いけれど。夕食をとらなきゃいけないものね。ご飯も食べないと、赤ちゃんに栄養がいかないもの。
ゆっくりと体を起こして、夕食前にオーウェン様と日課であるお散歩をすることにした。
「寒くはないか?」
オーウェン様がケープを羽織った私に更にオーウェン様の上着を着せようとしてくれる。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
風にあたると、少し気分が良くなった気がする。
「オーウェン様、」
「どうした? つらくなったか?」
「まだ眠いですけれど、そうではなく。私はオーウェン様のこと、好きです。愛してます」
私が微笑んでそういうと、オーウェン様は目を見開いた。
「き、急にどうした?」
なぜかオーウェン様は動揺している。私、わりと普段から愛してると言ってるはずなのに、どうして──と思ったら、そういえば、はっきりと最後に言ったのは結婚した翌日のことだった。
「何かがあったわけではないのですが、伝えたいなとふと、思ったので」
毎日オーウェン様のこと、好きだと思っているけれど、それを口に出さなきゃオーウェン様には伝わらないものね。
「私だって、あなたが好きだ。愛してる」
オーウェン様に抱き締められる。私もぎゅっと抱き締め返した。
いつか老衰で死ぬまで、こうやって毎日を重ねていけたらいいと。そう思った。




