にじゅういち
さて。私のお腹の中に新たな命が宿ったことがわかったので。筋トレはやめて、とりあえず散歩や階段上りなどの適度な運動に切り替えることにした。
「ただいま」
「おかえりなさい」
王城から帰ってきたオーウェン様におかえりのハグとキスをする。オーウェン様はまだ、陛下の退位の件で忙しそうだけれど、以前にもまして、早く帰ってきてくれるようになったから、とても嬉しい。
オーウェン様が帰ってきた後、二人でする散歩は私の最近の楽しみだったりする。公爵邸の庭は、季節の花々が夕日に照らされて咲き誇りとても綺麗だ。
オーウェン様が贈ってくれたケープを身に纏い、庭を散策する。
「綺麗ですね」
「ああ」
花も綺麗だけれど。オーウェン様のほうをちらりと見る。夕日に反射してキラキラと輝く銀髪も、いつもとは違った色合いに見える瞳もとても綺麗だ。……そういえば。私に新たに立った死亡フラグのせいですっかり忘れていたけれど。オーウェン様のほうの死亡フラグは大丈夫かしら。ラスボス様になったオーウェン様が生きるのに飽きて、自殺しちゃうっていうやつ。
今のところ、というか、これからずっと、オーウェン様の一番の地雷である『愛してる』を嘘でいうことはないから、オーウェン様に殺される予定はない。だから、ラスボス様にはならないと思うんだけれど。やっぱ、この世界は退屈だわ、とかこの世を儚んで、自殺なんてしないわよね!?
私がそんなことを考えながら、オーウェン様を見つめていると、オーウェン様と目があった。
「どうした?」
「あの、オーウェン様。オーウェン様は、この世を儚んだことってありますか?」
私がそういうと、オーウェン様はぱちぱちと瞬きをした。しまった、聞き方が直球過ぎたかしら。それから、考え込むように目を閉じると、ゆっくりと口を開いた。
「母が亡くなる直前に、愛してると嘘をつかれたときは、そうだったかもしれないな。だが……」
オーウェン様が柔らかな瞳で私を見つめる。
「あなたが生きていてくれる限り、私が生きるのに飽きることはない。反対にいえば、あなたがいなくなってしまった、未来の私は、亡霊のようだった。ヴィクターという希望で辛うじて、この世にとどまっているような」
オーウェン様は、オーウェン様がであった未来のオーウェン様の覇気のない姿を語った。
──私の命、責任重大だわ! だって、オーウェン様に亡霊のようになってほしくないもの。元々そのつもりだけれど、精一杯生き抜かなきゃ。
ぎゅっと、オーウェン様の手を握る。
「私、頑張りますから。オーウェン様も生き続けて下さいね。オーウェン様がいなくなったら、私も亡霊になってしまいます」
手を握り返してくれたけれど、オーウェン様は苦笑した。
「どうだろう。あなたは案外他の男を見つけるかもしれない」
えぇー!? 私ってそんなに浮気性に見える? ショックでむすくれた私の頬をもう片方の手で、オーウェン様は愛おしげに撫でた。
「あなたはとても魅力的だから。周りの男が放っておくはずがない」
それを言うならオーウェン様だ。オーウェン様みたいな素敵なひと、どこを探したってオーウェン様しかいない。私がそう答えようとしたとき、キスをおとされた。
「!」
「だが、私は嫉妬深いんだ。あなたの隣に他の男がたつなんて想像したくないし、そんな真似は許さない。だから、あなたを決しておいていかない」
……ということは。ひとまず、オーウェン様の死亡フラグは折れたと考えていいのよね? 良かった。
「約束ですよ、オーウェン様」
「ああ」
約束の印にもう一度キスをする。そんな私たちを夕日が照らした。




