なな
変わらない? 割と頑張ってめかしこんで来たのだけれども。
なんて、とぼけてみるのはやめにして。
もしかして、私とオーウェン様ってどこかで会ったことがあるのかしら? でもおかしいな。面食いの私がこんなに美形の男性と直接会ったり話したりしたのなら、忘れるはずはないと思う。
「オーウェン様……、」
けれど、私が尋ねようとすると、はっとしたようにオーウェン様は私から距離をとった。
「すまない、忘れてくれ。今のはただの──勘違いだ」
その言葉に納得するには、あまりにオーウェン様は哀しげな瞳をしていた。
けれど、私は媚びのリリアン! ええ、そこはもう気づかない振りをしてみせますとも。
「そうですか。ところで、このドレスどうですか?」
「ああ。とても、綺麗だ」
目を細めて、オーウェン様が微笑む。うっ、眩しい。あぁ、もう。なんでこの世界はカメラがないのかしら! 今のオーウェン様の表情を焼き付けたいのに。
っと。いけない、いけない。当初の目的を忘れるところだったわ。
「オーウェン様、せっかくですし、休憩がてらクッキーを食べましょう!」
クッキーを食べながら、オーウェン様と話す。
「そこで、私が木の枝から枝へと飛び移ったとき、お父様がお前は猿か! と叫ばれて──」
あれ、おかしい。なんで私はこんな令嬢としてはあるまじきことを話しているのだろう。オーウェン様の中身を知って、愛の言葉を囁きまくって媚を売るつもりが。
だって、オーウェン様が、私が話すたびに興味深そうに蜂蜜色の瞳を輝かせるものだから。
そんな顔をされたら、このリリアン! 期待に応えないわけにはいかないわ!
ということで、調子にのって自分の話をペラペラと話していたところでネタがつき、私の面白恥ずかし昔話を話すに至ったというわけだった。
けれど、私のそんなエピソードに、令嬢としてあり得ないとドン引きするのではなく、
「あなたは、身体能力も高いのだな」
と微笑むあたり、この公爵様なかなか世間と感覚がズレているのではないかと思う。
けれど、お仕事は優秀にこなされているらしいので、流石としか言いようがない。
結局、オーウェン様の幼少期などの話は聞き出せなかった。でも、これ以上仕事の邪魔はできないし。そろそろお開きよね。さりげなーく、ボディタッチをしつつ、別れの挨拶をする。
さて。自室に戻り、息をつく。やっぱり、オーウェン様と私、過去に何かあったんじゃないかしら。そういえば以前も、『やはり貴方は』という言葉を聞いたし。
過去が気にならないわけでもないけれど、オーウェン様が勘違いにしたいのなら、そうするべきよね。
──と、扉がノックされた。
「はい」
オーウェン様だった。
「すまない。さっきいい忘れていたんだが、近々私たちの婚約を祝う夜会がある」