表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズも完結】死にたくないので、全力で媚びたら溺愛されました!  作者: 夕立悠理
新たな死亡フラグ!?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/89

じゅうよん

でも、ベネッタの家を訪ねるのは、考えてみれば初めてかもしれない。私がそういうと、ベネッタは何とも言い難い顔をした。

「……驚かないでね」

「わかったわ」

どんな家なのか想像しながら、馬車に揺られ、ついにベネッタの家についた。ベネッタは、魔法使いに与えられる特権である王都の一等地に住んでいた。


 「素敵なお家ね」

住みやすそうな、普通の家に見える。何に驚くことになるのだろうか。そう思いながら、ベネッタに家の中に入れてもらう。ーーと。リビングに繋がるのだという扉を開けると、そこに現れたのは、汚部屋だった。ゴミはないけれど、とにかく物が散乱している。

「私ね、片付けと料理が大の苦手なの。これでも、昨日サイラスに手伝ってもらって、何とかましになったほう、なんだけれど」

「そうなのね」

サイラスさん。ベネッタの友人であり、妖狐と人間のハーフの青年だ。私個人の感情としては、ベネッタとサイラスさんは友人以上の関係なのでは……と疑っている。


 それにしても。誰にでも向き不向きは、あるもの。ベネッタは、リビングに続く扉をそっと封印するように閉めると、私に向き直った。

「早速だけれど、キッチンはこっちよ」

キッチンも物凄いことになっているのかしら。そしたら、片付けから始めなければいけない。ちょっとだけドキドキしながら、キッチンに向かう。おそるおそる、キッチンに目をやると、とても綺麗だった。


 「ベネッタ。片付けできるじゃない」

キッチンがこんなに綺麗なら他の部屋だって綺麗になりそうなものだ。私が首をかしげると、ベネッタは素直に申告した。

「だって、一度も使っていないもの」

「……え?」

「だから、私がここに越してきてから一度も使ってないの」

……なるほど。それなら、こんなに綺麗なのも頷ける。でも、それなら。

「いつもご飯はどうしてるの?」

「外で食べるか、サイラスの家で食べてるわ」


 「じゃあ、まずは材料を買いにいきましょうか」

私が提案すると、ベネッタは首を振った。

「大丈夫。材料ならあるわ」

食材ケースをあけると、本当に材料があった。

「でも、どうして? ベネッタは料理しないんでしょう?」

「料理自体に憧れはあるから、食材は毎日買ってるの。でも、自分じゃできないから、結局サイラスのところに持っていって、料理してもらうんだけど」

ベネッタはまず形から入るタイプらしく、料理器具も最新のものが揃っていた。


 早速ベネッタとお菓子作りを始める。メニューは、私が一番作りなれていて、簡単なクッキーにすることにした。ベネッタは、料理が苦手というのは本当らしく、危ない手付きで、作業を進めていく。


 「それにしても、ベネッタ。何か心境の変化でもあったの?」

普段料理を全くしないベネッタが、料理を始めようとするなんて。私が卵を割りながら尋ねると、ベネッタは顔を赤くした。

「サイラスにね、言われたの。そんなんじゃ、お嫁にいけないぞって。お嫁にいけないのは困ると思って……」

でも、ベネッタは魔法使いだから爵位を持っているはずだし、使用人を雇う給料だってあるはずだ。料理が出来ずとも、お嫁にはいけると思うけれど。私がそう指摘すると、これ以上ないほどベネッタは顔を赤くした。


 「……それに、サイラスに私の手料理、食べて欲しいから」

なるほど。やっぱり、私の予想は間違ってなかったらしい。

「もうすぐ、バレンタインデーでしょ?」

バレンタインデー。懐かしい響きに目を細める。もちろん、この世界にそんな日はないけれど。想いを伝えたいのはどんな世界でも変わらない。


 「曖昧な関係を続けるのはもうやめにしようと思って」

「……そう。頑張ってね!」

以前の様子からして、サイラスさんもベネッタのことを想っている、と思う。


 だから、きっと、大丈夫。


 


 ーー少しだけ形がいびつな、でも愛情がたっぷり詰まったクッキーができた。


 「出来た! 出来たわ!!」

嬉しそうに、ベネッタがぴょんぴょんと跳び跳ねた。いつも年齢よりも大人びて見えるベネッタだけれど、そうしている姿は年相応の少女に見える。


 「ふふ。とても、美味しそうね」

こんがりときつね色に焼けたクッキーは、甘い香りをはなっていた。

「ありがとう、リリアン」

「いいえ。お役に立てたのなら、良かったわ」


 とても幸せそうな顔をした、ベネッタを見て、私も笑顔になる。


 ーーけれど。その数日後。泣きはらして目を真っ赤にさせたベネッタが私を訪ねてくるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!
連載中です!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ