じゅういち
とはいったものの。死因がさっぱりわからないから、対策のしようがないのよね。なので、私はいつも通りの生活を送っていた。以前との違いは、オーウェン様により、私の周りにいつもよりも多くの護衛がいるなどしかない。それでも。オーウェン様は、今まで以上に公爵邸でできる仕事は公爵邸でするようになったし、王城勤めのときもできるだけ早く帰ってきてくれるようになった。
つまり、一緒の時間が前より増えた! オーウェン様に気を使わせていることは大変申し訳ないのだけれども、とても嬉しい。
でも。一緒にいるということは、それだけドキドキするということでもあるのよね。オーウェン様のことが原因で私が死ぬなんて、ドキドキしすぎて死んだんじゃないかしら。
そんな呑気なことを考えながら、本を読んでいると、自室の扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
入ってきたのは、オーウェン様だった。オーウェン様今日はお仕事がお休みなのよね。
けれど、それなのにオーウェン様はいつもよりかっちりとした服装をしている。とってもよく似合っているけれど、どうしたんだろう。緊張しているふうだし、それになんだかいつもと雰囲気が違う?
私が首をかしげると、オーウェン様はピンクのマーガレットの花束を差し出した。
「私と、結婚してください」
「ーー!」
思いもよらない言葉に驚く。だって私たちは婚約者で。いつかは結婚することは決まっている。でも。
「よろこんで!」
私は花束を笑顔で受け取った。そこでようやく、オーウェン様が肩の力を抜いた。
「ふふ。プロポーズされるのって、とても嬉しいですね」
しかもマーガレットは私の好きな花だった。
「あなたが以前、私と家族になりたいといってくれたとき、とても嬉しかったんだ。だが、私から結婚しようとちゃんと言ったことはなかったと思って。改めて、言っておきたかったんだ」
オーウェン様の気持ちを嬉しく思う。きっと、不安な今だからこそオーウェン様はプロポーズしてくれたのだと思うから。
「それから、オーウェン様、なんだか雰囲気が変わられましたね」
私が尋ねると、オーウェン様は笑った。
「ああ。『人』を選ぶことにしたんだ。色々と考えた。妖狐のほうが、あなたを守れるのではないのだろうかと。でも、私はあなたと一緒に生きていたい」
そうか。妖狐は寿命が長い。しかもオーウェン様は王狐の血を継いでいる。閻実の界の住人に私がなったとしても、一生を共にするのは困難だろう。
「だから、あなたを一生をかけて守り、愛すると誓う」
私はたまらず、オーウェン様に花束ごと抱きついた。
「私も誓います!」
そういってからはた、と気づいた。これじゃあまるで結婚式の誓いの言葉だ。そう思ったのは私だけじゃないようで。オーウェン様と顔を見合わせて、笑う。とても、幸せだとそう思った。きっと、今日のことを私は一生忘れないだろう。




