じゅう
私が、不幸になる?
「オーウェン様、」
手放すなんて言わないで。私の幸せはあなたのそばにあるのに。
「……閻実の界で、『彼』から聞いたんだ」
それから、オーウェン様はぽつりぽつりと話し出した。閻実の界で、未来のオーウェン様と出会い、言われたことを。
「あなたの死がそれで避けられるなら、離れるべきだとわかっている。でも、それでも、私は」
「オーウェン様、私、幸せなんです。あなたのそばで、あなたに触れることができる今が。それはきっと、未来に死んだ私も一緒だと思います」
本当のことを言うと、死ぬのは怖い。めちゃくちゃ怖い。でも、死ぬのが怖いからって、今ある幸せを手放す気は毛頭ない。私は強欲なのだ。幸せだけど、もっと幸せになりたい。
「私がもっと幸せになるには、あなたが、オーウェン様が必要なんです」
抱きついていた腕を解いて、オーウェン様と目を合わせる。オーウェン様の蜂蜜色の瞳がやっぱり好きだと思った。
「オーウェン様、それに私たちはいつか死にます」
できるだけその日が遠ければいいと思うけれど。もっとずっとあなたと一緒にいたいから。
「そのときに、後悔が少ない方がいい。オーウェン様と離れたら絶対に私は後悔する。だから、オーウェン様、!」
オーウェン様に再び抱き込まれる。
「私も、おなじだ。あなたといたい」
「……オーウェン様」
それに。可愛い可愛いヴィクターにだって、オーウェン様と離れたら会えなくなる。そんなのは嫌だ。
「だから、努力する。あなたを喪わずにすむように」
「私も頑張ります」
私たちは不安を押し殺すように、強く抱き合った。




