ろく
さて。オーウェン様直々の屋敷の説明を受けたあとは、使用人を紹介された。
さすが公爵家の使用人なだけあって、皆、顔がお美し……じゃなかった。いえ、お美しかったのだけれども。とにかく、親切そうな人たちで安心した。
私の侍女はマージという名前らしい。オーウェン様は最後にマージを紹介したあと、申し訳なさそうに執務があるからといって、自室に戻ってしまった。
「これから、よろしくね。マージ」
「こちらこそよろしくお願いいたします、リリアン様」
うんうん、仲良くできそうでよかったわ。なのだけれども。けれども。人数、少なくない? 少くともこれだけの広さの屋敷ならもっと、使用人がいてもいいだろうと思う。
もしかして、オーウェン様が妖狐の血をひいていることで、周囲に恐れられていることが原因かしら。
疑問に思うけれど、これだけの人数で実際屋敷はちゃんと回っているので口には出さない。
なんといっても、どこに地雷があるかわからないからね!
うっかり踏みぬいて、カッとしたからで殺されたらたまらない。
さて。媚びるといったら、まずはあれよね。
「ねぇ、マージ。聞きたいことがあるのだけれど──」
オーウェン様の部屋を訪ねる。すると、入室の許可がでた。
「オーウェン様、そろそろ休憩いたしませんか?」
料理人が作ってくれたクッキーをもって部屋に入る。本当はクッキーも自分で作りたいのだけれど、オーウェン様は貴族が自分で料理をすることをはしたないと思うかもしれない。その確認がとれるまでは、手料理は封印だ。
「ああ。そうする。ありが──」
書類から顔を上げたオーウェン様が驚いたように、目を見開いた。
「大丈夫ですか? ペンを落とされましたよ」
クッキーをテーブルにおき、転がり落ちたペンを机の上におく。
「ありがとう。もしかして、あなたの、その姿は──」
「はい。オーウェン様の色を纏ってみたいと思いまして」
ここで頬を桃色に染めるのもポイントだ。
媚び媚び作戦そのいち。あなた色に染まる!
私が現在着ているのは、純白に金の刺繍がされたドレスに、銀に小ぶりなダイヤがつらなったネックレスだ。
オーウェン様色のドレスはないかと、マージに尋ねたところ、このドレスを用意してくれた。
まあ、不用意な着替えは必要ないと切り捨てられる可能性はあったけれど、オーウェン様の反応は大丈夫そう、よね。
本当は、もっとわかりやすく媚びるなら、愛してるだの、好きだの甘い言葉を囁くのが手っ取り早いのだけれど。
残念ながら私はまだ、オーウェン様がどんな方なのか知らない。面食いなので嘘ではなく愛してると言えるけれど、やっぱり愛の言葉は中身も愛した上で告げるほうがいいのかなと思うから。
「あなたは私が、私の『色』が怖くないのか?」
オーウェン様が妖狐の血をひいていることを恐れていないのかと言われ、媚びつつ嘘なく答えるには。
「私が怖いのは、死ぬことです」
オーウェン様が怖いというより、オーウェン様に殺されることが怖い。だって、焼死よ。絶対痛いわ!
「……そうか」
オーウェン様が椅子から立ち上がり、私に近づいた。
「あなたは、変わらないな」