きゅう
閻実の界から帰ってから、オーウェン様の様子がおかしい。でも、それを指摘してもいいものかと私は悩んでいた。
「いってらっしゃいませ、オーウェン様」
「あ、ああ。行ってきます」
オーウェン様にハグをする。オーウェン様も抱き締め返してくれた。けれど、一瞬躊躇したことを見逃さなかった。でも、そのことには気づかない振りをして、オーウェン様を送り出す。
「オーウェン様に、いったい何があったのかしら」
一番考えられるのは、閻実の界で未来のオーウェン様(仮)に聞いた私の死因、よね。そんなにもうどうしようもない死因なのかしら。病気の可能性は低いと思っていたけれど、心臓発作とか脳梗塞だとか。
その他に考えられるのは。も、もしかして! 私の媚びが足りないのかしら!? 確かに最近オーウェン様に特別媚びるようなことをしていなかった。それに。私の体を見ると、最近サボっていたダイエットのツケがきている……気がする。気のせい……、気のせいよね。そう信じながら、体重計にのる。
「!」
思わずあげそうになった悲鳴を寸前のところで飲み込んだ。増えている。確実に増えている。最近の私ったら、オーウェン様の愛情にあぐらをかいていたわ。反省しないと。今日からリリアン・ラインハルト。美ボディ目指して、ダイエットを再開します!
オーウェン様がお仕事に行っている間、筋トレに勤しんだ。マージはまた頃合いを見計らって、さっとタオルを差し出してくれた。それをありがたく受けとる。本当にできる侍女だわ。
さて。汗もかいてしまったし。着替えよう。
「そうだわ!」
せっかく着替えるのなら、久しぶりにあのドレスを着ようかしら。マージに頼んで、ドレスを用意してもらう。
良かった。体重は少し増えたとはいえ、このドレスのサイズを変更するほどではないみたい。いえ、でも、油断は禁物よね。
そんなことを考えながら、ドレスを着替える。
ネックレスも、ドレスに合わせて変えて、鏡で確認する。化粧もせっかくだし、濃い目のものにしようかしら。
マージに手伝ってもらい、化粧も整える。うん。わかっていたけれど、マージは化粧の腕前も素晴らしいわね。
……と、そうこうしているうちに、オーウェン様が帰ってきた! 帰ってきたオーウェン様を出迎える。
「おかえりなさい、オーウェン様」
「ただいま……!?」
オーウェン様が私の姿を見て目を見開いた。ど、どうかしら。私の姿やっぱり、太ったから似合ってないとか? 私がぐるぐると考えていると、オーウェン様に抱き締められた。
躊躇うことなく、伸ばされた手に安堵する。
「懐かしいな。あなたのその姿」
「はい。久しぶりに、オーウェン様の色を纏ってみたいと思いまして」
私が着ているのは、以前着たことのある、純白に金の刺繍が施されたドレスだった。
「オーウェン様?」
胸のなかにぎゅうぎゅうに抱き込まれ、オーウェン様の表情が見えない。オーウェン様どうしたのかしら。この姿が失敗だった、ということはないはずだけれど。
「……まない。すまない」
「オーウェン様?」
そういう、オーウェン様の声は震えていた。オーウェン様に謝られる理由なんて、何一つない。どうしたんだろう。
「私はーー。私は。あなたを手放すことができない。たとえ、そのせいであなたを不幸にするのだとしても」




