ろく
オーウェン様が帰ってくる前に、ヴィクターは目を覚ました。
「……ん」
「ヴィクター、目が覚めたの?」
「母上!」
ヴィクターは私の顔を見ると、飛び起きた。
「どうしよう、父上と約束したのに……僕寝ちゃってた」
「ヴィクターは十分私を守ってくれたわ。ありがとう」
「母上……」
ぎゅっとヴィクターが、私に抱きつく。
「僕、どうしたらいい? どうしたら母上は、ずっと僕たちと一緒にいてくれる?」
「……ヴィクター」
どうしたら、いいんだろう。どうしたら、私は、死なない?
「未来で側にいられるように、頑張るわ」
結局私の口からでたのは、そんな言葉だった。
帰ってきたオーウェン様を出迎える。オーウェン様は私を強く抱き締めた。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま。あなたもヴィクターも無事で、良かった」
ヴィクターもオーウェン様とハグをしようとして躊躇った。
「ヴィクター?」
どうしたんだ、とオーウェン様が首をかしげる。
「僕、寝ちゃって母上をちゃんと守れなかったから、父上にぎゅってしてもらえない」
「さっきも言ったけれど、ヴィクターはちゃんと守ってくれたわ」
「ヴィクター、ヴィクター自身が健やかであることも仕事だ。だから、ありがとう」
そういって、ヴィクターをオーウェン様が抱き締める。今度はヴィクターも抱き締め返した。
夕食をとり、お風呂を済ませた後、ヴィクターを私とオーウェン様で寝かしつける。けれど、ヴィクターはお昼に寝ていたせいか、あまり眠くないらしく、なかなか寝てくれなかった。
それでも、絵本を読んだり、子守唄を歌ったりしているうちに、ようやく眠気が訪れたらしく、眠りに落ちていった。眠ったヴィクターの頭を二人で撫でてから、私の部屋をでる。
そして、オーウェン様の執務室へ。今後のことを話し合うためだ。
「あなたの友人から返事はきたか?」
ベネッタの家は王都内にあるので、ベネッタが定時で帰れれば今日中に手紙が届くはずだ。
「いいえ、まだです」
「そうだろうな。今は閻実の界自体が不安定だ。忙しいのだろう」
でも、ベネッタばかりに頼りすぎるのはよくないとわかっているけれど、私たちはそんなに閻実の界に明るくないから、どうしようもないのよね。
「ただ、閻実の界が安定するとヴィクターの本来の時間軸に戻せない可能性がある」
それでは、未来のオーウェン様(仮)がひとりぼっちになってしまう。未来のオーウェン様もずっとヴィクターを探しているだろう。
「ヴィクターが今の私たちに会っている時点で、時間軸が変わっている可能性が既にあるが」
確かに! 未来のオーウェン様もヴィクターにもし会っていない場合、色々とおかしくなるのよね。それに私は死ぬことを避けようとしている。それで避けることができたら、完全に未来はかきかわるわよね。
「だが、私はあなたのいない未来など欲しくない。明日、私が魔法軍を訪ねよう」




