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ひとまず私がしないといけないのは、ベネッタに手紙を書くこと。さっそく自室に戻り、手紙を書く。
私が手紙を書いている間、ヴィクターはキリッとした表情で私の隣に座っていた。
よし。こんなものかしらね。完成した手紙に封をして、ベネッタの家に届けてもらうことにする。
ヴィクターは相変わらずキリッとした顔をしていた。
「どうしたの、ヴィクター」
私が尋ねてもヴィクターは、表情を変えずに答えた。
「母上を守るって父上と約束したからね! 母上に何かあったら僕が妖術で、やっつけるからね」
なるほど。どうやら、私を守るためにヴィクターは周囲を警戒してくれていたらしい。……でも、公爵の婚約者となったとはいえ私はただの男爵令嬢。この公爵邸に私を脅かすものはないし、刺客が差し向けられることもない。
いえ、でも、もしかしたらオーウェン様の婚約者の座を狙って、私を亡きものにしようとしてくる人がいないとも考えられないか。だって、オーウェン様はとっても素敵な方だもの。
もしかして、私の死因は、それだったりしないかしら。
——なんて、考えも仕方ないわよね。
とりあえず、ヴィクターの頭を撫でる。
「ありがとう、ヴィクター」
頭を撫でると、ヴィクターは気持ち良さそうに目を細めた。
「そういえば、ヴィクター。何かしてほしいことある?」
ヴィクターの為にできることは何でも、例え僅かな間でもしてあげたかった。
「うーんとね、えっとね、母上のクッキーが食べたい!」
「わかったわ」
それならお安いご用……といいたいけれど、料理人のセディの邪魔になったらいけない。許可をもらいにいこう。
セディはあっさり頷いてくれた。
「お嬢様と坊っちゃんの頼みならもちろんですよ」
「ありがとう」
と、いうわけで、クッキーを作る。相変わらず、ヴィクターは周囲を警戒していた。
「ヴィクター、一緒に作らない?」
「いいの?」
「もちろんよ」
厨房は、ヴィクターの身長ではたかすぎるので、椅子を用意してもらった。
二人でクッキーを作っていく。未来の私(仮)はヴィクターと何度か作っているのか、ヴィクターは手際がいい。そのことを感心しているうちに、あっという間に型抜きの工程に入った。
「ヴィクター、どんな型がいい?」
私が尋ねると、ヴィクターは星形いがいなら何でもいいと言った。
「ヴィクター、星きらいなの?」
「だって、母上を仲間だと思って、連れてっちゃうかもしれないから」
そうか。オーウェン様は死んだ私(仮)のことを星になったと表現したから。でも、大丈夫なんて軽々しく言えない。私が死なない保証なんてどこにもないもの。
「わかったわ。じゃあ、トランプにしましょうか」
スペード、クローバー、ハート、ダイヤの型で、クッキー生地をくりぬいた。
後は、オーブンで焼くだけだ。
オーブンで焼いている間にダグラスが手配してくれた絵本をヴィクターを膝の上にのせて、読み聞かせる。
絵本なんて、久しぶりに読んだけれど、結構面白い。
「めでたし、めでたし……ヴィクター?」
どうやら、ヴィクターは眠ってしまったらしい。ずっと、私を守るって張り切ってたから、その緊張が解けたのだろう。
ヴィクターを私のベッドまで運び、寝かせる。今日は、昨夜のようにうなされないといい。
「おやすみなさい、ヴィクター」
そう願ってヴィクターの額にそっとキスをした。




