よん
深夜。うなされている声で目を覚ます。
「……いていかないで。おいていかないで、母上」
ヴィクターの閉じられた瞼から涙がこぼれ落ちた。
「……ヴィクター」
ヴィクターの頭を優しく撫でる。さらさらの銀髪が心地いい。ヴィクターはまだ幼い。母親を亡くしてどれほど、心細かっただろう。私も幼い頃母を亡くしている。母を失ってからというもの、父はその悲しみを紛らわすように仕事に没頭するようになって家にもよりつかなくなった。もちろん、未来のオーウェン様はもし、私が死んでもちゃんとヴィクターの側にいるだろうけれど。
それでも。そんな未来にならないように、最善を尽くさなきゃ。オーウェン様が私に歌ってくれた子守唄を歌う。どうか、今だけでも。ヴィクターが安らかに眠れますように。そう祈りを込めて。
すると、ヴィクターのうなされ声は徐々に聞こえなくなった。代わりに規則正しい寝息が聞こえる。良かった。ほっ、と息をつく。
ヴィクターと握った手を強く握り直して、私も眠りに落ちていった。
翌朝。目覚めると蜂蜜色の瞳と目があった。
「おはよう、母上」
「おはよう、ヴィクター」
ヴィクターの方がどうやら少しだけ早く目覚めたみたいだ。ヴィクターの顔色は悪くない。そのことを嬉しく思いながら、支度を整える。
ヴィクター用の服は昨日のうちに、ダグラスが用意してくれたので、それに着替えさせた。
と、丁度支度が終わったところで、扉がノックされる。マージだった。
「朝食の準備ができました」
「ありがとう。今いくわ」
ダイニングにヴィクターと一緒にいくと、すでにオーウェン様は席についていた。
「おはようございます」
「おはよう、父上!」
「あぁ、おはよう」
朝食はいつも通り、とっても美味しかった。食後の紅茶を飲んでいると、オーウェン様が申し訳なさそうな顔をした。
「本当はずっと、あなたたちの側にいたいんだが……」
「そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ。お仕事頑張ってくださいね」
「そうだよ、父上。母上のことは僕が守るから!」
意気込んだヴィクターの頭を撫でる。わかっていたけど、本当にいい子ね。
「わかった。それなら、安心だな」
「うん!」
そして、オーウェン様が出発する時間になった。もはや恒例のハグをする。
「父上、僕も」
ヴィクターとオーウェン様もハグをする。
「リリアンのこと、任せた」
「うん。行ってらっしゃい、父上」
そして、オーウェン様は出発した。




