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「えー、どうして?」
ヴィクターが不満そうに首をかしげる。
「私だって……いや、とにかくヴィクター。私と入ろう」
結局、有無を言わさぬオーウェン様により、ヴィクターはオーウェン様と入ることになった。
私としては、一人は一人で気楽でいいのだけれど。でも、どうしてそんなにオーウェン様はだめだって、言ったのかしら。もしかして、私だって、の後に続くはずだった言葉はヴィクターとお風呂に入りたいかしら。
オーウェン様ったら、子煩悩なのね。でも、それなら安心だ。将来、今の私たちにヴィクターが産まれたときにきっと可愛がってくれるだろう。
そういえば。ヴィクターは、未来のオーウェン様と閻実の界ではぐれたといっていた。もしオーウェン様が妖狐ではなく人を選んだ場合、閻実の界にいくときはヴィクターと一緒だからいいとして。現実世界に帰れないわよね。それに、オーウェン様の性格からして、必死にヴィクターを探してるはず。
どうにかして、ヴィクターを未来のオーウェン様の元に送れる方法があればいいのだけれど。
でも、ベネッタに相談しないことには、どうにもならないわよね。私は閻実の界のことに詳しくはないし。せいぜいが、あやふやなゲーム知識くらいだ。
お風呂を済ませ、自室でため息をついていると、扉がノックされた。
「どうぞ」
訪ねてきたのは、侍女のマージだった。ヴィクターも一緒だ。
「母上、一緒に眠るのはいい?」
「もちろんよ」
「オーウェン様に、おやすみの挨拶をしましょうか」
隣室のオーウェン様を訪ね、おやすみの挨拶をする。
「おやすみなさい、オーウェン様」
「おやすみなさい、父上」
「ああ、おやすみ……!?」
おやすみを言うが早いか、ヴィクターはオーウェン様の寝室に入るとベッドに潜り込んだ。
「ヴィクター、私と眠るんじゃなかったの?」
私が尋ねると、ヴィクターはきょとんとした顔をした。
「うん。だって、父上と母上一緒のベッドで寝てるでしょう?」
──そうか! ヴィクターの中で私たちは夫婦で。夫婦なら、寝室が一緒でもおかしくはない。
そういえば、ヴィクターに私たちが本来のヴィクターの父親と母親ではなく、過去の父親と母親だと言うのを忘れていた。でも、伝わるだろうか。
「あのね、ヴィクター。私たちはあなたのお父様やお母様じゃないの」
「僕はやっぱり、よその子だったの?」
「いえ、そうじゃなくて。あなたの両親の若い頃と言えばわかるかしら。実は私たち、まだ結婚していないの」
公爵邸の使用人たちはみんな信用ができる人たちだとはいえ、さすがに婚約者が一緒に寝るというのはよくないだろう。
私がそのことを説明すると、ヴィクターは少し混乱したようだけど、なんとか納得してくれた。
そして私の寝室で一緒に眠った。ヴィクターの要望で、手を繋いだ。子供の体温は少し高くて暖かい。私は優しいぬくもりを感じながら、目を閉じた。




