いち
えええええ。ど、どうしよう!? オーウェン様に殺される以外にも死亡フラグがたってたなんて。
動揺する私の肩にオーウェン様は、手を置くと、子供に向かって微笑んだ。
「とりあえず、家のなかに入ろう」
流石、オーウェン様! こんなときも落ち着いて──って、肩に置かれた手がめちゃくちゃ震えている。オーウェン様も動揺してるわね。オーウェン様が動揺しているのがわかって、反対に私は落ち着いてきた。
自分より混乱している人がいると、落ち着くとはこのことね!
「ええ、そうね、あなた──名前は言えるかしら?」
「遠くに行きすぎて僕の名前忘れちゃったの? ヴィクターだよ、母上」
「じゃあ、ヴィクター。屋敷の中に入りましょう」
ヴィクターと手を繋ぐ。ヴィクターの手は暖かい。それにしてもこんな可愛い子をのこして死ぬなんて。私ってば、どんな死に方をしたのかしら。
そんなことを考えながら、中庭から公爵邸の中に入ると、家令のダグラスがあんぐりと、口を開けた。
「お、オーウェン様、これはいったいどういう……」
それはそうだろう。ダグラスからしてみれば、オーウェン様にそっくりな子供と手を繋いでいる私。隠し子にしては私と子供が親密すぎるし、ただの迷子にしては似すぎている。そもそもお茶会をするからと人払いをしたあとに、現れた子供なのだ。驚くのも無理はなかった。
「あ、ああ、その。私たちの未来の子供らしい」
オーウェン様が、ダグラスに今までのことを説明すると、優秀なダグラスはなるほど、と頷いた。えっ!? それで納得できるの? 優秀すぎない!?
「あれれぇ、ダグラス? 髪が生えたの?」
ヴィクターが私から離れてダグラスに飛び付く。どうやら未来のダグラスは、髪がないらしい。
ダグラスは何とも微妙な顔をして、けれど、ヴィクターの頭を撫でた。ひととおり構ってもらえて安心したのか、ヴィクターはまた、私のところに戻ってきて、ぎゅっと手を繋いだ。
「母上、これからはずっと一緒だね!」
このきらきらの笑顔に本当のことを話すのは、気がひけるわ。
「……本来なら、閻実の界に送り届けるべきなのだろうが、その後この時間軸に私がちゃんと戻ってこれる確証はないのが困るな。それに」
オーウェン様は、屈んでヴィクターに目線を合わせると、核心を尋ねた。
「どうして、リリアンは星になったんだ?」




