ごじゅう
ええと、落ち着つかなきゃ。状況を整理しましょう。妖狐の子供が迷い込んできた。ここまでは、いい。子供がオーウェン様を父上と呼んだ。けれど、オーウェン様に子供はいない、というのがオーウェン様の言葉だ。そして、今度は子供が私を母上と呼んだ。しかし、私にも子供はいない。……だめだわ、さっぱりわからない。
「あなたのお母様のお名前言えるかしら?」
「リリアン・ヒューバード」
リリアンは私の名で、ヒューバードはオーウェン様の名字だ。私とオーウェン様は、顔を見合わせた。
「私、お菓子作りが趣味なの。特にクッキーが好きなのだけれど、隠し味に何をいれるか知ってる?」
「蜂蜜! 父上と僕の瞳の色と同じ、蜂蜜だよ! 母上」
オーウェン様の瞳を蜂蜜のようだと思っていたことも当てられた。ということは、もしかして。いえ、でも、そんなことってあるのかしら。流石に私も子供がコウノトリやキャベツ畑で産まれてくるわけではないと、知っているわけで。
「……王狐の影響か?」
「え?」
「王狐の代替わりがあっただろう。私も聞いた話だが、王狐の代替わりがあると、閻実の界の時間の流れがおかしくなることがあると聞く」
確か、本来なら閻実の界のほうが時間の流れがゆっくりなのよね。
「そうだよ! 父上と妖術の練習に閻実の界にいったの。そしたら、父上とはぐれちゃって……」
また泣き出してしまった子供の頭を撫でると、子供は少しだけ落ち着いたようだ。泣き止んでくれた。
「もう父上も母上も、いなくならないでね」
「? オーウェン様はともかく、私も?」
はぐれたオーウェン様はともかく。私もいなくならないで、とは?
「だって父上が母上はもう遠くにいってお星様になっちゃったっていってた。でも、嘘だったんだね!」
え──?
この子が本当に未来の私たちの子供だと仮定して。この子が言っていることも正しいと仮定して。私未来で、死んでるの!? 死亡フラグは折ったと思ってたけど、実は折れていなかった!?




