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私に与えられたのは、オーウェン様の隣室だった。
「……わぁ」
すごい。品よく整えられた調度品も素敵だけれど何より部屋が、広い。
「気に入らなかったら、自由に変えてもらって構わない」
「いえ! こんな素敵なお部屋をありがとうございます。とても嬉しいです」
うわー、こんな素敵なお部屋で暮らせるなんて夢みたい……、はっ! 私が喜んでどうする。私の目標は、媚びて媚びまくることなのに。私が落ち込んでいると、オーウェン様は不思議そうな顔をした。
「どうした?」
「ちょっとした自己嫌悪なので、気になさらないで下さい」
「そうか?」
「はい。あの、オーウェン様」
オーウェン様は、どうして私との結婚を承諾したのだろう。我が家に融資もしてくれて。オーウェン様側に利益があるようには思えないけれど。
「オーウェン様は、どのような女性がお好きですか?」
オーウェン様に不可解なものを見るような顔をされたけれど、仕方がない。媚を売る上で、好きなタイプの女性に近づくことは重要だ。
「……目を、目を合わせてくれる女性は、好ましく思う」
「なるほど。その他には?」
相手の目を見て話すことは癖付いているので、問題なさそうだ。
「笑顔を見せてくれると、嬉しい」
オーウェン様を見ると、自然と口角が上がるのでこれも問題なさそう。
「その他は?」
「他には──、どうしたんだ? 急にそんなことを気にして」
「オーウェン様の好みの女性に近づきたいと思いまして」
令嬢として培った笑みでそう答える。
「なっ……」
オーウェン様の頬が朱に染まる。あら、オーウェン様って、こんなにお美しいのにその手のことはあまり言われたことはないのかしら。たじろぐオーウェン様に近づき、甘く囁く。
「だって、オーウェン様に愛されたいんですもの」
オーウェン様に殺されたくないから、という理由は付随するけれど。それだけじゃない。せっかく結婚するのだ。愛し愛される関係がいい。
「……嘘、じゃないんだな」
信じられないものを見る顔で、ぽつりと言われた言葉に首をかしげる。嘘じゃなくて、本気だけれど。
「私、嘘はつきません」
その代わり腹芸は割と苦手だけどね! そんな私に本当に公爵夫人が務まるのかしら、と疑問ではあるけれど。
「その言葉、忘れないでくれ」
「わかりました」
何か嘘にトラウマでもあるのかしら……とは思うものの、そこに踏み込みはせず、望まれた通りの言葉を返す。媚は売るけど、嘘はつかない。うん、このポリシーで行こう。