よんじゅうはち
「お初にお目にかかります。リリアン・ラインハルトと申します」
確か、アドリアーノ公爵夫人は以前の夜会は体調を崩して、欠席していたはずだ。
「初めまして。マイカ・アドリアーノと申します。まぁまぁ。可愛らしいお嬢さんね!」
ふふ、と微笑んだアドリアーノ公爵夫人はとても美しい。でも、どうしてオーウェン様は、私のことを紹介したのだろう。疑問に思いつつも、暫く談笑して別れた。
「アドリアーノ公爵夫人は公平な方だ」
オーウェン様は言った。
「私が妖狐でもあることを本当のところどう思っているかは私にはわからないが。私の能力を買って下さっている。以前、お茶会で、あなたが傷つけられて帰ってきたことがあっただろう?」
ハンナ侯爵夫人に招かれたお茶会のことだろう。あのお茶会では私の立ち回りが甘いせいで、大変なことになった。
「あなたが、私のせいで傷ついてほしくないんだ。私はあなたに幸せになってほしい」
なるほど。だから、あれよね。今後の社交はハンナ侯爵夫人のグループではなく、アドリアーノ公爵夫人のグループを中心に行ってほしいということだろう。でも。
「私もオーウェン様には幸せになってほしいです」
私がそういうと、オーウェン様は笑った。
「そういってくれるあなたが側にいるだけで、私は十分幸せだ。……さて。私と一曲踊っていただけますか?」
オーウェン様が少しだけおどけたように、手を差し出した。私はもちろん、笑顔で頷きましたとも。
「喜んで!」
そんな夜会が終わり、数日がたったある日のこと。
公爵邸の中庭で、オーウェン様と一緒にお茶会をしていた。お茶うけは、私が作ったクッキーだ。オーウェン様は、美味しいといってくれて、私もとっても幸せな午後の昼下がり。
妖狐の子供が迷いこんできたのだ。繁魔の月はもう終わったのに。
「どうしたの? 迷子かしら」
私が近寄ろうとすると、オーウェン様は手で制した。
「待て。あなたに何かあると危ない。ここは私が──」
けれど、子供はオーウェン様に飛び付いた。
『父上!』
ち、父上!? 父上ですって!? オーウェン様に隠し子がいたの!?!?




