よんじゅうご
宝玉を壊す。宝玉とは新たな王位継承者が現れたときに新しく出現するらしく、つまり、その宝玉が王を選んでいるともいえるものだった。壊れるのは王が死んだときか、王の意思によって壊した時のみらしい。壊してしまえば、別の宝玉が出現し、新たな王を選定するので、閻実の界にも大きな影響はない……らしい。
宝玉は閻実の界の中心部にあり、それをもって、妖狐の王城にいくことが、王の一番最初の仕事らしかった。
妖狐のルールはよくわからないけれど、とにかく、このことをオーウェン様に伝えよう。男性──ちなみに名前はサイラスというらしい──にお礼をいって、別れた。
『……なるほど』
公爵邸に帰ってオーウェン様に説明すると、オーウェン様は頷いた。
『ありがとう。あなたのお陰で、なんとかもとの姿に戻れそうだ。……あなたには、助けられてばかりだな』
「そんなこと、ありません! 私もいつも助けられてますし、それに。私たちはいずれ夫婦になるんです。助け合うのは当然ですから」
私がそう強く力説すると、オーウェン様は笑った。
『そうだな。ありがとう』
「でも、オーウェン様。閻実の界の中心部に行くなんて、危険じゃないですか? やっぱり魔法軍に協力を仰いだほうが……」
でも、オーウェン様は微妙な立場だから、協力を仰ぐのは危険だろうか。
『ああ。すべての魔法軍の隊員がそうだとは言えないが。殺そうとしてくる輩も多いだろうな』
私は魔法も妖術も使えないから、オーウェン様に閻実の界に連れていってもらっても力になれないし。ベネッタは、流石にオーウェン様が王狐となると上層部に話さざるを得なくなるだろうから、協力してもらうのは難しくなるだろうし。
『大丈夫だ。だから、そんなに心配そうな顔をしないでくれ』
「オーウェン様……」
心配だ。大好きな人のことなんだから。
『宝玉の場所は何となくわかるんだ。だから、すぐに帰ってくる』
「……はい」
俯いた私の手の上にオーウェン様は、そっと手を重ねた。
そして、その翌日。オーウェン様は、宣言通り帰ってきた。ぼろぼろの姿で。




