よんじゅうよん
私が首をかしげると、男性は一つため息をついて、説明してくれた。
「あんたから、匂いがプンプンするんだよ」
えっ! もしかして臭い!? 香水も嗜み程度にしかつけていないのだけれど。
「違う。妖狐の匂いだ。妖怪やら鬼やらに俺のパートナーだから手ぇだすなって、牽制するためのな。あんたそうとう愛されてるぜ」
「……そう、ですか」
オーウェン様の気持ちを疑っているわけではないけれど、他人から指摘されるのは恥ずかしいものがある。私が赤くなりながら俯くと、それを見て男性はふっ、と笑った。
「それで? 相談は?」
「オーウェン様──私の婚約者が、妖狐の姿から戻れないんです」
私はオーウェン様のことを男性に話した。
「オーウェン……ミレンの息子か! 上位種どころか王狐じゃねぇか! なんで、それをもっと早く言わない」
そんなに怒られても、王狐?というのがそもそも何なのかがわからない。
「ミレンは、妖狐の上位種の中でも特別な存在──、王狐と呼ばれる。その名の通り、妖狐の王だ。問題なのは、奴が死んだということ」
「え?」
そもそも、ダリア王女殿下を奪い返すときに、ミレンは討伐されたんじゃなかったかしら。だから、もう、とっくに死んでる──はず。
「表向きはな。ミレンは王狐だ。そう簡単には殺せない。だが、魔法軍にも面子があるから、死んだということにしたんだろう。ミレンは生き延び、そして、つい最近、死んだ」
王が死んだら、どうなる? 次の王がたつ。もしかして──。
「オーウェン様が、次の王に、選ばれてしまった?」
私がそういうと、男性は頷いた。
「おそらくな。ハーフはいずれ選ばなければならない。人か化け物か。二つに一つだ。本来なら、自分で選べるんだが……」
男性も選んだのだろうか。でも、自由に変化できるって、ベネッタが言っていたからまだ選んでいない? 私の視線に気づいて男性は笑った。
「ああ。俺は『人』を選んだ。ベネッタが泣くからな。あいつにはまだ選んでないといってるが。だからもう、妖狐には二度となれない。あいつには、言うなよ」
頷く。ベネッタの話をする男性はとても、優しい瞳をしていた。きっと──そういうことなのだろう。
「あんたのパートナーは、まだ妖術が使える。それで、人の姿もとれた。だからどちらもまだ選んでない。……そもそも選ぶことをまだ知らなかったんだろうな」
でも、オーウェン様は、妖狐の姿から変われない。王狐に選ばれてしまったから。
もし、オーウェン様が王狐になりたいのなら、私もついていくけれど。でも、今のところはそれはオーウェン様の意思じゃない。
「どうすれば、オーウェン様は自分の意思でどちらかを選べるんでしょう?」
「閻実の界にいって、王狐の宝玉を壊すしかないな」




