よんじゅうさん
私は再び馬車に揺られ、ベネッタがくれたメモの住所を目指していた。知らなかった。オーウェン様以外にもハーフがいるなんて。でも、考えてみれば当然よね。鬼や妖怪は人間の女性を拐うもの。婚姻の儀までに連れ戻せなければ、完全に閻実の界の住人になるけれど、みんなが間に合わないわけじゃない。
そういえば。ベネッタの友人はどんな人なんだろう。彼って、いってたし、男性なのよね? それでもってなんと、オーウェン様と同じ妖狐と人間とのハーフだとか。なにか、オーウェン様が元に戻れるような手がかりがあればいいんだけれど……。
と、馬車が一際大きく揺れた。どうやら、ついたみたいだ。御者にお礼をいって、馬車から降りる。書かれていた住所についたものの、その家は王都にあるものとは思えないほど簡素だった。
コンコン、と扉を軽く叩く。
「すみません、ベネッタの紹介で伺ったのですが──」
すると、舌打ちをしながら男性がでてきた。銀色の髪に金色の瞳。妖狐の特徴をしっかり受け継いでいる。
「ベネッタのやつ、また面倒事を押し付けやがったな……」
見るからに不機嫌そうだ。けれど、男性は私の姿を確認すると表情を変えた。
「お前、仲間の女か」
「えっ?」
仲間って? 意図が掴めず、首をかしげると、男性はもっと詳しく言った。
「お前、それもかなり上位種の妖狐の恋人だか、パートナーだかがいるだろ」
「えっ、ええ。はい」
上位種だとかはわからないけれど。オーウェン様は私の婚約者だ。私が頷くと男性は、私を家のなかに入れた。
「入れ。外にあんたみたいなお嬢さんがいると、目立つ」
「はい」
男性は私を部屋に通すと、お茶を出してくれた。
「ありがとうございます」
「別に。あんたみたいなお嬢さんの口に合うかはわからないけど」
そんなことない。とっても美味しい。使われていたのは、かなり質のいい茶葉だった。
「それで? ベネッタの紹介っつーのは、お前のパートナーのことか?」
「はい。そうなのですが……、そもそもなんで、私が──」
「妖狐のパートナーだって、わかったか、か?」
私が頷くと、男性は呆れた顔をした。
「あんた、気づいてないんだな。マーキングされてるぞ」
マーキング?




