よんじゅうに
「どうして……」
「オーウェン公爵が微妙な立場にいることは、知ってる?」
ベネッタが真剣な顔をして私を見た。オーウェン様は、ダリア王女殿下の息子で、王家の血を継いでいる。臣籍に下っているけれど、確か──。
「王太子殿下に、男児がいないから、よね?」
王太子殿下には、三人子供がいるけれど、みんな女児なのだ。この国ではどんなに位が高くても、一夫一妻制。愛人を囲うという手がないでもないけれど、現王太子様は、愛妻家で有名。そんなことは許さないだろう。かといって、原則として、女は王位を継げない。
「そう。だから、オーウェン様の存在はとても不安定なのよ。臣籍降下したといっても、王族に復帰した例がないわけじゃないわ」
確か、10代前の王族に復帰した方がいらっしゃったはずだ。
「そんなオーウェン公爵が、人の姿になれないなんて、格好のネタよ。何かと理由をでっち上げて、オーウェン公爵を亡きものにしようとするに違いないわ」
……どうすればいいんだろう。どうすれば、オーウェン様は元の姿に戻れる?
「ただ、妖怪や鬼と人間とのハーフはオーウェン様だけじゃないわ」
「そうなの?」
「ええ」
「ダリア王女殿下のように、婚姻の儀までに何とかこちらに連れ戻すことができても、それまでに襲われてしまった場合に時々ね」
それで。と、ベネッタは、話を続けた。
「オーウェン公爵は、あなたを助けるときに何度か妖術を使ったでしょう?」
「ええ」
頷く。鬼の姿に変化したのと、アレクに放った炎と、認識を阻害する妖術。私が知る限りでも、三回使っている。
「そのことに引っ張られているなら、姿が変わってもすぐに元に戻る……はずなのだけれど。戻らないということは、あるいは……。いえ、憶測で語るのはやめましょう」
そういうと、ベネッタはサラサラと紙にメモした。記されてるのは、住所と名前だ。
「私にも、ハーフの知り合いがいるわ。彼は自在に姿を変えられる。そして、少なくとも、戻れなくなったことはないわ。彼に、話を聞きに行けば何かわかるかもしれないわ」




