よんじゅう
ど、どどどうしたら、いいんだろう。オーウェン様が、どんな姿であろうともオーウェン様であることに変わりはないのだけれども。でも、ずっとその姿のままだと、抱き締めあうことも、手を繋ぐこともできないわ! 一生そうできないなんて、そんなの嫌だ!
「オーウェン様、オーウェン様は、眠るとき、いつもそのお姿なのですか?」
『いや、違う。私がこの姿になったのは、あのときただ一度きりだった』
なるほど。じゃあ、突然戻れなくなった、というよりは、突然妖狐の姿になった、ということか。
「オーウェン様、昨日寝る前に何か変わったことはなさいましたか?」
『いや、いつも通り寝ただけだ。特に変わったことは、何もなかったように思う』
うーん。いったい何が起こったのだろう。疑問はつきないけれど。とりあえず、私にできることは。
「オーウェン様、私の友人を訪ねてみます」
『友人?』
「はい。昨日、以前私が鬼に誘拐された件でお世話になった、閻実の界担当部の方がいらっしゃったでしょう? そのときに、友人になったんです。彼女なら、もしかしたら何かを知っているかもしれないから」
それに昨日オーウェン様に妖狐の側面に引っ張られている可能性があるという話をしたばかりだ。だから、彼女なら詳しい話を知っている可能性は高い。
私がそういうと、オーウェン様は険しい顔をした。
『ということは、あなたは、魔法軍を訪ねるということか……』
「ええ、はい。そのつもりです」
オーウェン様は、魔法軍にあまり良い印象を持っていないのだろうか。私の疑問が顔に出ていたのか、オーウェン様は頷いた。
『ああ。あまり気持ちのいい場所じゃないから、あなたには出来れば行ってほしくない。……だが、私のせいだからこの姿で言っても説得力がないな。せめて、一緒に行けたら良かったんだが』
オーウェン様のその姿で魔法軍に乗り込むと、私と同行していたとしても血気盛んな魔法使いに退治されてしまう可能性がある。
「大丈夫です。すぐに帰ってきますから! だから、安心してオーウェン様は待っていて下さいね」
とりあえず、オーウェン様の現状は、家令のダグラスにだけ本当のことを伝えて、他の使用人たちには、具合が悪いから部屋に入らないように、と伝達することにした。
支度を整えて、出発する──その前に。
「あの、オーウェン様」
『どうした?』
「触れても、いいですか?」
尋ねると許可がでたので、オーウェン様の頭を撫でる。さらさらとしたさわり心地の毛並みはとても気持ちが良かった。
「私、オーウェン様のことが好きです。オーウェン様がどんな姿でも。そのことを伝えておきたかったんです」
もちろん、一生オーウェン様と手を繋げないだとか、抱き締めあったりできなくなるのは、嫌だし、そのことをちゃんと解決するために行ってくるのだけれど。知ってほしかった。私は、『オーウェン様』のことを好きになったのだと。昨日言った、家族になりたいという想いはそんなに軽い気持ちではないことを。
『……ありがとう。あなたはいつも、私を救ってくれる』
私の方こそ、救われている。そう答える代わりに、オーウェン様の頬に口づけた。
「では、行ってきますね」
『なっ、あっ。…………行ってらっしゃい』
オーウェン様はかなり動揺していた。頬とはいえ、キスをするのは初めてだ。行ってきますのハグの代わりだったんだけれど、大胆なことをしてしまったかもしれない。私もオーウェン様につられて赤面しながら、オーウェン様の部屋を出た。




