よん
絶世の美人とは、この人のためにあるような言葉ではないかと思った。銀糸の髪は、歩く度にさらさらと揺れている。とろりとした蜂蜜のような瞳を縁取る長いまつげも、銀色だ。
綺麗……。
私の好みの顔とか、そんなレベルじゃない。誰がどうみたって、美しいと思うだろう顔だった。
「私の顔に何かついているだろうか」
あまりにも顔を注視しすぎたせいか、少しだけ心許なさそうに、オーウェン様がいう。儚げなその表情に鼓動が速まる。
「ああ、それとも。私の、この髪と瞳のせいだろうか」
傷ついたように目を伏せたのも、美し……ってそうじゃなくていや、美しいけれども。
「それは違います!」
あなたが妖狐の血を引いているからじゃない。はしたないけれど、慌ててぶんぶんと首を振った。
「では、なぜ?」
「あなたが、その、あまりにもお美しかったので。ですが、不躾でした。申し訳ありません」
目を合わせて謝罪をいったあと、頭を下げる。すると、懐かしむような声でオーウェン様は言った。
「やはりあなたは私と目を合わせてくれるのだな」
そういって白い頬を嬉しそうに朱にそめて、微笑んだ。
えっ、ええっ、えええ!
そ、そんな顔で笑うんだ。美しすぎて直視できない。なんていうか、もう。
「……好き」
「え? 今、なんと?」
ぽろっと心の声が出てしまった。だって美人なのに笑ったら可愛いとか反則でしょ!
「え、えっと、あのその」
あなたのお顔が可愛らしすぎて思わず好きといってしまいました。なーんて言えるわけない。媚を売るなら、さっき言っちゃったけど美しいなんて言われなれてるような言葉じゃだめよね。さっきも、美しいという言葉には無反応だったし。
聞き返されてしどろもどろになっている私にオーウェン様は近づく。
「聞こえなかったので、さっきの言葉をもう一度言って頂けないだろうか?」
って、近い近いわ。うわー、お顔が眩しい。眩しすぎる。
「忘れてください。大したことではないのです」
「そうか?」
「ええ」
私が頷くとなぜか、とても残念そうな顔をしたオーウェン様は気を取り直したように咳払いをした。
「では、屋敷内を案内しよう。ついてきてくれ」
「はい」
ここからついに私の媚び媚び生活が始まるのね! 頑張って媚びて寿命を延ばさなくっちゃ。