さんじゅうきゅう
そこまで言ってからはたと、気づく。これじゃあ、まるで、プロポーズだ。いえ、そうなのだけれど。オーウェン様の過去の話を聞いて、この想いが止まらなかった。私、オーウェン様の家族になりたい。たとえ、ベネッタがもし、オーウェン様に恋に落ちたとしても。もう、オーウェン様の隣を誰にも譲りたくなかった。
っていうか、そもそも、婚約者だからいずれは結婚するんだし、今さらプロポーズなんておかしかったかしら。恥ずかしいわ。オーウェン様は、どんな顔をしているだろう。そう思って、ちらりとオーウェン様の方を見ると、オーウェン様は、耳まで真っ赤だった。
「……オーウェン様?」
恐る恐る私がオーウェン様に声をかけると、オーウェン様は、フリーズ状態から動き出した。
「……ありがとう。その、私もあなたと家族になりたい」
オーウェン様は、赤い顔でそれでも、心底幸せそうな顔をした。私もきっと、同じ顔をしているに違いない。
──私たちは、きっと、幸せになれる。そう思った。
翌朝。私はスッキリとした目覚めで、朝を迎えた。支度を整え、オーウェン様に挨拶をしようと、ダイニングに行くとオーウェン様の姿がない。おかしい。オーウェン様は、いつもなら紅茶を飲んでいる時間のはずだ。そう思って、家令のダグラスに尋ねると、オーウェン様は今朝はまだ起きてきていないらしい。今日は仕事が休みだからと、ダグラスも起こすようなことはしなかったそうだ。
そういえば、寝起きのオーウェン様って、見たことがない。寝起きはやっぱり、普段より幼く見えるのかしら。見てみたいわ。そうふと思い付いて、オーウェン様の部屋の扉をノックする。けれど、オーウェン様の返事がなかった。やっぱりお休みだから長く寝ていらっしゃるのかしら。でも、なぜか気になって、普段ならそんなことしないのに、勝手に扉を開けてみることにした。
「……オーウェン様? 失礼しますね」
扉を開け、ベッドに近づく。ベッドはこんもりと盛り上がっている。オーウェン様はまだ、寝ていただけなのね。良かった。そう胸を撫で下ろしながら、優しく布団をめくる。
「オーウェン様、朝です……よ?」
布団をめくると、いつもの優しい蜂蜜を溶かしたような金の瞳と目があった。
けれど。
「……え? オーウェン様?」
そこにいたのは、狐、だった。って、オーウェン様じゃないの。だって、過去に出会ったオーウェン様そのものだわ。銀色の毛並みは色艶がいい。
と、そこではっと、思い至った。
「オーウェン様は、寝るときは裸派なのですね? しっ、失礼しました!!!」
だって、あのまま人間に戻ると、ふ、服とかない……のよね、たぶん。そう思って慌てて、部屋から出ようとすると、頭のなかで声がした。
『違う! ちゃんと昨夜も服を着て寝た!』
オーウェン様の声だ。あれ、でも、なんで、耳からじゃなくて頭の中で声がしたんだろう。そう思って振りかえると相変わらず、妖狐な姿のオーウェン様が、心なしか困ったような顔をしていた。
『だから、人の姿になれば、服も戻る……はずなんだが。じゃなくて!』
どうしたんだろう。
『目が覚めたら、この姿になっていた。それで、その……人の姿になれないんだ』
えええ!?




