さんじゅうはち
そのことに気づいたとき、驚きよりも、納得した。だから、母は私を愛せなかったのだと。私は妖狐の血を引き、このような本性をもつから全ては仕方ないことなのだと。
もう、このままで死んでもいいと思ったとき、幼いあなたに気づいた。あなたは、鬼から逃げ回っていた。そして、鬼に追い付かれた。あなたの姿が、母と重なった。母が拐われる前に助けられていれば、こんなことにはならなかったと。
あなたを助けたいと思ったが、その頃の私は自分の力を知らなかった。だから、力ずくで鬼を退けるしかなかった。私は、鬼に突進し、噛みつき、そんなことを何度かくりかえした後、元々森の中でぼろぼろだったのもあって私は意識を失った。死んだと思った。それで全てが終わるなら、いい気がした。
けれど、私が目を覚ましたのは、死後の世界ではなかった。あなたの家だ。あなたが傷ついた私を必死に看病をしてくれたのを覚えている。何度も私の手──いや、前足だな。を握り、回復を祈ってくれたことも。そして、私は生きながらえた。
「あなたは、覚えていないかもしれないが」
そこで、オーウェン様は言葉を切り、微笑んだ。
「あなたは私の怪我が治り、私を森に返すとき、私の瞳がとても綺麗だと言ってくれたんだ。あなたにとっては深い意味のない言葉だったのかもしれないが……」
母が亡くなって絶望していた私にとって、それは希望だった。私の半分は人間で、もう半分は妖狐で。それでも、生きていていいと言われた気がした。
半分の妖狐だった私を私は、初めて受け入れられた。そのことに気づいたとき、私は人間の姿に戻っていた。
「あなたがいなければ、私はあのまま野垂れ死ぬか、妖狐の姿から人の姿に戻れずに一生を終えたかもしれない。あのとき、私を救ってくれて、ありがとう」
「救われたのは、私の方です! オーウェン様は、二度も私を助けてくれました。本当にありがとうございます。……それから、私は、オーウェン様のことが好きです。愛してます。だから……私と結婚してください。私は、あなたと家族に、なりたい」




