さんじゅうろく
「……気づいていたのか。ああ、そうだ。私は八年前、あなたを助け──そしてあなたに、助けられた」
やっぱりオーウェン様は、あのとき私を助けてくれたんだ。でも、私がオーウェン様を助けたとはどういうことだろう。
「あなたのお陰で、私は、人に戻れた」
それから、オーウェン様はゆっくりと話し出した。オーウェン様の過去の事を。
──私は、母をこの国の第一王女、父を妖狐として、この世に生を受けた。あなたも知る通り、この銀の髪も、金の瞳も妖狐の特徴だ。本来なら母は、隣国との結び付きを強めるため、隣国の第一王子と結婚することになっていた。二人は手紙などで交流があり、それなりに幸福な結婚になる、はずだった。けれど、母はその直前に妖狐に見初められた。その妖狐の名は、ミレンというらしい。妖狐の中でも、力を持った存在だった。ミレンは、王城で眠っていた母を拐い、閻実の界へと連れていった。そして、母を襲い、その結果、生まれたのが、私だ。
当然、隣国の王子との結婚は流れた。私が生まれたときから、皆が腫れ物を扱うように、私に接した。皆──いや、一人違うな。母は、私をどこにでもいるごく普通の子供のように、扱った。私が悪いことをすれば叱るし、良いことをすれば、誉める。自分の息子として大切に育ててくれた、のだと思う。私は、それが嬉しかった。
「そういえば、あなたに、一つ隠していたことがある」
「隠していたこと、ですか?」
私が首をかしげると、オーウェン様は頷いた。
「私は、嘘がわかるんだ。あなたに、恐れられたくなくて、その、黙っていた。……すまない」
だから、オーウェン様は、私が嘘をつかないといったとき、その言葉を忘れないでくれといったのかしら。
「いえ! 話して下さってありがとうございます。それは、すごいですね。でも、大変そうです」
私がそういうと、オーウェン様は頷いた。あまり、気持ちのいい力ではないと。そして、話を続ける。
あなたにも話した通り、私は、生まれたときから何となく人のつく嘘というものがわかる体質だった。どのように、と言われたら困るが、とにかくつかれた嘘はわかったんだ。でも、この力について、誰かに言ったことはなかった。あなたが、はじめてだ。
母は、優しく、そしてなにより、嘘をつかない人間だった。だから、私は、母のことが好きだった。愛していた。
けれど、私が10歳を迎えたある日、母は病に倒れた。私はもちろん、国王も母の兄である王太子も、手を尽くしたが、母の病状は良くなることはなかった。
徐々に痩せ細る母の姿を、私は今でも鮮明に覚えている。母は、もう自分に時間がないと悟ると、私を彼女の元へと呼び寄せた。痩せて骨ばった指で、私の手を握った。
「そして、母は死の間際に言ったんだ。私を──愛していると」




