さんじゅうご
オーウェン様の帰りをまって、どれくらいの時間がたっただろうか。オーウェン様がついに帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
おかえりなさいのハグをする。オーウェン様の腕のなかは相変わらず心地いい。しばらく、オーウェン様の腕のなかを堪能した後、マドレーヌを焼いたことを思い出した。
今日はオーウェン様のお帰りがだいぶはやかったから、まだ、おやつの時間を少し過ぎたくらいだ。
「オーウェン様、お菓子食べませんか?」
私は少しだけにやつきながら、オーウェン様に尋ねる。
「今日は、そんなに楽しみなお菓子があるのか?」
私の表情を見てオーウェン様は、不思議そうな顔をした。慌ててぶんぶんと、首を振る。
あまりハードルをあげられてはこまる。
「ええっと、そこまででは……、いえ、少しだけ楽しみかもしれません」
食べたときのオーウェン様の反応が。あっ、でも、まずいと思われたらショックだから少し怖いのもある。
「それから、オーウェン様。お菓子を食べ終わったら、大事なお話があります」
「……悪い話か? やはり、私のことが嫌になったとか──」
オーウェン様は、急に挙動不審になった。
「違います! 私はオーウェン様のことを嫌になったりしません」
「……そうか、それなら良かった」
今日も愛してるって、送り出したばかりなのに、もうそう思われるなんて、私もなかなか信用されていないわね。もっと、もっとオーウェン様に信用されるように頑張らなきゃ。
オーウェン様と一緒に紅茶を飲みながら、マドレーヌを食べる。
「……美味しい。だが、いつものセディの味付けとは違うな」
オーウェン様がマドレーヌを食べて、首をかしげた。
「お、美味しいですか!?」
「? ああ。美味しい」
良かった。
「あの、それ……実は、私が作ったんです」
「あなたが!? とても、美味しかった。あなたは、よく自分を凡庸だと卑下するが。そんなことはないと思う」
そういって、オーウェン様は微笑んだ。どうしよう、めちゃくちゃ嬉しいわ!
「よければまた、作ってくれ」
「はい、喜んで!」
セディのお仕事の邪魔にならないくらいの頻度なら、大丈夫よね。よーし、頑張ってオーウェン様の胃袋を掴むわ!
「それで、話と言うのは?」
オーウェン様は、マドレーヌを食べ終わったあと、カップをおいて私を見た。そうだった。オーウェン様に大事な話があるんだった。でも、これって、私の予想が当たってたら大事だけど、外れてたら全然大事じゃないのよね。大事って言ったのは少し大げさだったかしら。そう後悔しながら、話を切り出した。
「あの、オーウェン様。オーウェン様は、八年前も、私を鬼から助けてくれましたよね?」




